昔、山岳信仰が根付いていた小さな村があった。
その村は、自然に囲まれた静かなところで、若い女性たちが神々への祈りを捧げる習慣があった。
特に、村の奥にある古い神社では、神々の加護を受けるための大切な儀式が行われていた。
その神社は、深い森の中にひっそりと佇んでおり、村人たちから「神の遺産」として大切にされていた。
ある日、村を訪れた若い巫女、名を文子は、村人たちに頼まれてその神社の儀式を執り行うことになった。
彼女は神社の裏手にある巨大な岩に腰を下ろし、目を閉じて神々に祈りを捧げていると、何かの気配を感じた。
振り向くと、古びた像が見えた。
その像は、かつて村を守っていた神の姿を象っていたが、長い年月にわたり古くなってしまっていた。
文子はその像に近づいてみると、突然、背後から冷たい風が吹き抜けた。
その瞬間、彼女の心の奥深くに、何かが訴えかけてくる感覚を覚えた。
「私を呼び覚ましてほしい…」という声が、彼女の耳元で囁いた。
驚いた文子はすぐにその場を離れようとしたが、背後から強い引力に引かれるように再び像の前に立たされた。
彼女はその声に魅了され、思わず手を伸ばした。
触れた瞬間、彼女の視界は真っ白に輝き、神々の姿が浮かび上がった。
彼女は神々の間を駆け巡り、神々の教えを受け取った。
しかし、その光景が次第に曇り始め、彼女は目の前の美しい風景が崩れ落ちるのをただ見つめるしかなかった。
「功を成すためには、失うものがある。」その言葉が彼女の心に響いた。
文子は、神々の力を取り戻すためには自らの存在を捧げる覚悟が必要だと感じた。
村に戻った文子は、神社の儀式を続け、毎日神々への祈りを捧げた。
しかし、日が経つにつれ彼女は次第に体力を失い、夢の中で神々から託宣を受けるが、それは痛切な代償を求めるものであった。
託宣は、神々の聖なる地を守るために彼女自身の存在が必要だということを告げていた。
「あなたが手に入れた『神の力』は、あなた自身が代償となる。」その言葉に心が揺らいだが、文子は決意を固めた。
彼女は神々のために自らを捧げる覚悟を持っていた。
その覚悟を持ち続けることで、彼女はその力を村に与え続けることができるのだと信じていた。
ある晩、文子は神社に向かうと、信じられない光景が広がっていた。
神々の光が神社を包み込み、村全体がその恩恵に預かろうとしていた。
しかし、彼女の体は次第に消えかけ、風に乗って彼女の名前が響いていった。
「文子はここにいる。私はいつもあなたたちの側にいる。」
村人たちは、彼女の奮闘を期待し、彼女を思い出しながら神を敬った。
そして、文子の存在は伝説となり、村の守り手として語り継がれていった。
文子は神々となり、その神社の光となることで、永遠に村を見守り続けているのだ。
時折、村の若者たちは、深い森の中で彼女の影を探し、彼女の教えを思い出すのだった。
「失うことは新しい道を開く」という教訓を心に留めながら。
