神々の間に封じられた試練。
その存在は、古くから人々の中に語り継がれ、決して軽々しく口にしてはならないとされていた。
彼らの神々がこの世の者にどのような試練を課すのか、知る者はいなかった。
ただ、試練を受けた者は、その後二度と帰って来ないという噂だけが広まっていた。
ある日、普通の高校生である佐藤健一は、その封じられた試練の噂を友人たちとともに聞くことになった。
皆で遊び半分にその話をし、興味本位で近くの神社に行くことにしたのだった。
その神社は、長い間人々から忘れ去られていたが、今も祭られる神々の存在を感じさせる、神聖な雰囲気を持っていた。
「ここがその神社なんだな」健一はドキドキしながら言った。
「お、お化けとか出るのかな?」と心配そうに言った友人、村上と中村は怯えた表情を浮かべていた。
健一は少し笑いながら、二人を励ますように言った。
「怖がらなくていいって、本気で試練を受けるつもりなんてないさ。ただの噂なんだし。」
それでも、神社に足を踏み入れると、周囲の空気が変わった。
普段感じることのない神秘的な力が身体を包み込み、明らかに非日常的な世界に足を踏み入れたという感覚があった。
三人は興味津々で一つの古びた石碑に近づいた。
そこには、「試練を受ける者には必ず試される」と刻まれていた。
「何これ…」中村は石碑を指さして言った。
「試練って、どういう意味なんだろう?」
その時、突然、周囲の風が吹き荒れ始めた。
三人は一瞬にして自分たちが神々の試しを受けることになったと悟る。
強風に翻弄され、目の前の光景が歪んでゆく。
気づくと、彼らはそれぞれ別々の場所に立っていた。
健一は、自分が空虚な白い空間に放り出されたことに気づいた。
心臓が高鳴り、彼は周囲を見回す。
「村上っ!?中村っ!?どこにいるんだ!」せわしなく呼びかけたが、返事はなかった。
恐怖が彼の心を締め付けていく。
彼はこれが神の試練であることを理解し始めた。
そのとき、彼の足元に一枚の黒い封筒が落ちてきた。
驚きつつも手に取り、開封する。
中には、いくつかの質問が書かれていた。
「自分の一番の恐れは何か?」
健一は顔をしかめた。
自分の恐れ、そう考えると思い浮かぶのは、いつも明るくあろうとする自分が暗い部分を持っていることだった。
人の目を気にし、生きることに疲れ果てることが、その恐れの本質なのかもしれない。
彼は数分間思案したが、結局答えが見つからず、黒い封筒を地面に叩きつけた。
その瞬間、周囲が揺れ、白い空間は幻想的な景色に変わっていった。
目の前には無数の人々がいて、その中に友人たちの姿を見つけた。
「健一!ここだ!」と叫んでいる村上の声が耳に届く。
しかし、人々は健一の知らない顔ばかり。
彼は混乱し、失った部分が再び彼を襲う。
「仲間を失うことだ…その恐れを試されているのか…」健一は苦しみながら叫んだ。
「それでも、私は諦めない!」
その言葉が響くとともに、周囲の景色が背景として消えていき、白い空間に戻ってきた。
今度は違った封筒が目の前に現れ、彼の心を強く捉えた。
「お前の運命は試練にどう応えるかだ。」とだけ書かれていた。
「私は負けない!」と叫ぶと、神々の声が空間に響き渡った。
「お前は試練を乗り越えた、仲間との絆を守れ。」
その瞬間、健一はどこか安心感に満たされていた。
心に蓄えた恐れを価値に変えることができたのだ。
やがて、意識が戻り、仲間たちと再会し、無事に神社の外に戻っていた。
「どうなったんだよ、健一!」と村上が心配そうに訊ねる。
それに対して、健一は微笑んで答えた。
「試練を受けたよ。だからこれからも、どんな恐れがあっても一緒に乗り越えよう。」
その後、三人は神社を後にしたが、試練の内容や神の存在がどれほど重いものであるかは未だに分からなかった。
しかし、彼らの心には確かな絆が結ばれ、新たな絆が芽生えたことだけは間違いなかった。