その村には、古くから語り継がれる伝説があった。
神の怒りに触れた者には、決して逃れる術はないと。
村の奥深くに佇む一本の古木、その根元には長いこと誰も近づかない老いた男が住んでいた。
彼の名は修太郎。
村人たちは彼を不気味に思い、子どもたちには「悪いことをしたら修太郎に連れて行かれる」と脅かされた。
修太郎は若い頃、村のために戦った勇士だったが、時の流れとともにその顔は皺に覆われ、身体は次第に弱っていった。
しかし、彼の目には何か特別なものが宿っていた。
それは神を感じ取る能力だった。
生きた神の意志を読み取り、その怒りを受け止めることができる男だった。
ある夏の日、村では異常な現象が続いていた。
人々が畑を耕すと、突然燭台の火が吹き消え、その炎が村全体を包み込むように燒き移った。
肌で感じるほどの恐怖が村人たちを襲い、家々は次々と燃え上がっていった。
その様子を見た村人たちは、修太郎の元へ駆け込んだ。
「お願いだ、修太郎!村が燃えている!神の怒りを鎮めてくれ!」
修太郎は、無言で彼らの話を聞いていた。
しかし、彼の心の中には迷いがあった。
かつて、自分が戦った相手たちの中には、神が見放した者たちもいる。
彼らも村を襲った災厄の一部ではないのか。
しかし、村人たちにはその真実を伝えられないと感じ、ただ静かに目を閉じて神へ祈りを捧げることにした。
「神よ、どうかこの村を助けたまえ」
祈った瞬間、闇の中から神の声が響いた。
「修太郎、戦を終わらせよ」
その瞬間、修太郎の体は力を持ち、村の中心で神の意志を形にする術を思いついた。
彼は炎の中に走り込み、自らの存在をかけて火を消すことを決意した。
その時、彼が老いていることなど関係なかった。
彼の心には、村を守るという使命感しかなかった。
彼が炎に触れた瞬間、周囲は静寂に包まれた。
燃え盛る火が彼の体を貫通し、横たわる姿を周囲の人々が見つめる。
彼の体が炎に包まれながらも、炎の勢いは徐々に失われていった。
彼は火と一体化し、村を守るためにその身を捧げた。
やがて、火は修太郎の意志に従い、彼の存在と共に消えていった。
村人たちはその光景を見つめ、ただ呆然としていた。
そして、終わりなき戦が勝利を収めた時、村は再び静けさを取り戻した。
しかし、修太郎の姿はどこにも見当たらなかった。
村人たちの心には、失った者への哀悼の念と、彼の勇敢な行動への感謝が同時に宿っていた。
今でも村の空には、彼の祈りが響いていると信じられている。
神の怒りは収まったが、修太郎の伝説は語り継がれていくであろう。