静かな山村、霧が立ち込めるその場には、古い伝説が息づいていた。
村の人々は「神の山」と称し、崇拝しながらも近寄ることを避ける場所だった。
そこには、長い間人々の記憶に封印されていた恐ろしい秘密が隠されていたのだ。
物語の主人公は、山里で育った若者、晃(あきら)。
晃は好奇心旺盛で、いつも村の長老から昔話を聞くのを楽しみにしていた。
ある日、晃は祖母から伝えられた話を聞くことになった。
それは、山の奥深くに住む「わ」という神の存在についてだった。
この神は、無垢な者の血を求めることで知られており、そのため人々は近づくことを忌避していた。
晃はその話を聞くうちに、かえって山に行きたくなった。
彼の中で「わ」への興味が膨らみ、果たしてその神が本当に存在するのか、自ら確かめたいと思ったのである。
数日後、晃は決意を固め、一人で山に向かうことにした。
厚い霧の中、晃は静かに山を登っていった。
途中、様々な音が耳に届く。
風の音、鳥のさえずり、そして何か幽かな囁きが混ざっているようだった。
晃の心は高揚し、やがて彼は一つの木の下に辿り着いた。
そこには、過去の人々が供えたと思われる赤い布や、お供え物が散らばっていた。
その瞬間、晃は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
不安な気持ちが押し寄せると同時に、ただの好奇心が根本から覆される感覚に襲われた。
ふと目を上げると、目の前に巨大な影が現れていた。
それは山の精霊「わ」であり、まさに晃が恐れていた存在だった。
「愚かな者よ、なぜ私に近づく?」その声は重く、空気を震わせるような響きを持っていた。
晃は思わず体をすくめたが、心のどこかでその神に引かれている自分を感じた。
「あなたは本当に存在するのですか?祖母の言うように、無垢な者の血を求めるのですか?」彼は勇気を振り絞って質問した。
「無垢な者、そして贖(あがな)いを求める者は、一度自らの運命を知るべきだ。」その言葉は、晃の心に重く響いた。
彼の目の前には、かつてこの山で犠牲となった者たちの霊が現れ、哀しげに彼を見つめていた。
晃は彼らに何が起きたのかを尋ねた。
過去に、村人たちが「わ」を侮り、その怒りを買った結果、毎年何人かの若者が山の生け贄として捧げられていたという。
晃はやがて、自分がこの山に来た理由を理解し始めた。
彼自身が、祖母の言っていた「贖い」を果たすために選ばれたのだと。
神「わ」は告げる。
「君が来たことには意味がある。過去を解(と)き放ち、未来をつかむ者であれ。」
晃は決意した。
自分の存在をこの村の呪いから解き放ち、人々を救うために、彼は「わ」に自らの血を捧げることを選ばなければならなかった。
彼はその場にひざまずき、目を閉じた。
やがて、彼の意識は静まり、神聖な光に包まれていった。
その夜、村人たちは突然の静寂に包まれた。
霧が晴れ、星が輝いている。
その中で晃の姿は消え、彼の心の中に「わ」の存在は永遠に刻まれた。
彼は神に選ばれ、犠牲を果たしたことで、山の呪いは解かれ、村には安らぎが訪れた。
彼の犠牲は、贖いであり、未来を照らす光となったのだった。