「神の宿る社と霊の祈り」

静まり返った山の奥深く、誰もが恐れる神の宿る社があった。
古びたその社は、神々が祀られ、長い間人々の信仰を受けてきたが、現在は訪れる者もまばらになっていた。
人々はその社を避けるようになり、その理由は神々の怒りを買うと語り継がれていた。

ある日、近くに住む青年の太郎は、不気味な噂に興味をそそられ、友人の健二とともに社へ行くことを決めた。
そこには、神々が怨念を抱き、霊となって彷徨うという噂があった。
二人は薄暗い森を抜け、社の前に立った。

「本当にこんなところに来ることになるとは…」と言いながら、健二は神社の重々しい雰囲気に圧倒されていた。
しかし、好奇心に負けて中に入ることにした。
神々を祀る台座の前に立ち、二人は無言でその神々へ祈りを捧げた。

すると、急に風が吹き荒れ、自らの後ろで影が動いた。
「何かいる…」太郎が小声で言った瞬間、神々の像の背後から、薄暗い霊が現れた。
視界の隅に見えたその影は、全身が白く、ぼやけた顔を持っていた。
それは怨霊のように見え、目が合った瞬間、不気味な笑みを浮かべた。

「逃げろ!」健二が声を上げた。
だが、彼らは動けず、霊に引き寄せられるように立ち尽くしていた。
すると霊は、神々の声を模倣し始めた。
「私たちを忘れないで…」その声は耳元でささやかれ、二人は恐怖を覚えた。

「私はここに閉じ込められ、救いを求めている」と霊はさらなる言葉を続けた。
太郎も健二も、その声に引き込まれていく。
周囲の空気が重くなり、彼らを包み込むように霊が近づいてきた。

「私の名前は茂。私は神に捨てられ、ここにいる。俺はお前たちの力にすがりたい」と、霊は訴えかけてきた。
その瞬間、霊の目が二人の心に入り込み、彼らはその苦しみを直に感じることになった。
茂が直面した悲しみは、永遠に続く苦痛そのものであった。

「お願いだ、助けてくれ。私をこの土地から解放してほしい」と茂は悲痛な声で叫んだ。
二人はその言葉に心を動かされたが、同時に恐怖も感じていた。
神々の宿る社で、霊を助けることは禁忌であり、神の怒りを招くことになる。
だが、彼らは無視することもできなかった。

「どうすればいい?」太郎が思わず問いかける。
その瞬間、霊の姿は一層鮮明になり、彼らの目の前に現れる。
茂は涙を流し、悲しさと希望の入り混じった表情をしていた。

「私の祈りを聞いて、神々の前に私のことを伝えてほしい。そうすれば、私は安らかに眠ることができる」と茂は訴え続けた。
二人は互いに顔を見合わせ、神に対して何をするべきかを考えた。

結局、彼らは茂の願いを受け入れることにした。
太郎と健二は、社の壁に手を触れ、神々に向かって声を合わせる。
「茂という霊を救ってください!」と。
恐ろしいことが起こるかもしれないという不安に揺れながら、彼らは祈り続けた。

その時、突然、雷が鳴り響き、神社が揺れ始めた。
霊は激しく震え、悲しむように叫んだ。
「私を捨てないで!」二人の声が社に響く中、神々の怒りか、静寂のような力が場を支配した。
茂の姿が徐々に薄れていくのを、太郎と健二は見守った。

「ありがとう、私の願いを叶えてくれて…」その声が最後に響くと、茂の存在は漂う霧の中に消えていった。
周囲は静まり返り、神々の後ろに響き渡る声が残った。
二人は肩を寄せ合い、一歩引いて社を見上げた。

何が起こったのかは分からなかったが、彼らは少なくとも一つの苦しみを解消した。
社へ訪れることが過去のものであるように、恐れを抱きつつ二人は重苦しい森を後にした。
その後、神社には二度と足を踏み入れることはなかった。

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