「砂に埋もれた記憶」

河のほとりにある公園は、日々の喧騒から少し離れた静かな場所だった。
人々は時折訪れ、リラックスしたり、子供たちは遊具で楽しんだりしていた。
しかし、その河には一つの不気味な伝説があった。
それは、砂が流れるように変わるというもので、何かに取り憑かれたかのように人を失わせるという噂が立っていた。

ある日、大学生の山田健介は、友人たちと共にこの公園でバーベキューをすることにした。
彼は川の流れを見つめながら、少し不安がよぎった。
あの伝説を友達が笑い話にしていたが、彼の心には根強くその話が残っていた。
ただの作り話であってほしいと願った。

その日の夕暮れ時、健介たちは楽しげに過ごしていたが、次第に日が沈み始めると雰囲気が変わり始めた。
公園の外から冷たい風が吹き、砂埃が舞い上がった。
友人の佐藤がふとそう呟いた。
「砂がすごく舞ってるな…なんか不気味だな。」言われた通り、砂が空中に舞い上がり、周囲の景色を霞ませていた。

健介はその時、河の向こうに何かが見えるような気がした。
景色が揺らぎ、視界がぼやけ、まるで別の世界が開けているような感覚に襲われた。
彼は心の中に不安を抱えながら、その視線を強めようとしたが、次の瞬間、強烈な風が吹き荒れ、砂が彼の顔を叩いた。
目を閉じるしかなかった。

友人たちの笑い声は次第に消え、静寂が訪れた。
目を開けた健介は、周囲が一変していることに気付いた。
友人たちの姿が消え、ただ川の流れと、恐ろしいほど静かな砂利の音だけが響いていた。
心の不安が現実となり、彼は急に恐れを感じた。

健介は必死に周囲を探し回ったが、友人たちの姿はどこにも見当たらなかった。
心のどこかで彼らが失われてしまったのだと悟った。
彼は何度も友人たちの名前を叫んでみたが、返事はなく、ただ耳に残るのはその恐ろしい静寂だった。

そのとき、河の水面がゆらゆらと揺れ、何かが浮かび上がってきた。
健介は一歩後退り、心臓が高鳴った。
そこには、かつて彼が友人たちと過ごした幸せな思い出の断片が現れていた。
彼らの声が聞こえた。
楽しそうに笑っている声、バーベキューを楽しむ声。
だが、彼はその声が次第に悲鳴に変わっていくのを感じた。

周囲の砂がまた舞い上がる。
その中には、何かが彼を引き寄せようとする力があるようだ。
彼は意志に反して、砂に足を取られながら、河の方へと引き寄せられていった。
彼は必死に逃げようとしたが、砂はまるで生きているかのように彼の足首を絡め取っていく。

「こんなところにいちゃダメだ!」健介は自分の声で叫んだ。
その瞬間、彼の目の前に友人たちの姿が現れた。
しかし、彼らの表情は歪んでいた。
どこか怯えた様子で、助けを求めるように彼を見つめていた。
彼はその瞬間、自分が何か大きな過ちを犯していることに気づいた。

「導かれてる…」友人たちの告げる恐ろしい言葉が、まるで彼の意識に響き渡るように感じた。
まるで河が彼の運命を決めようとしているかのように、彼の心が砂に埋もれていくのを感じた。

冷たい水が彼の足元に迫り、それが彼を呑み込もうとしていた。
自分を失い、友人たちと共に消えたくないと叫んだが、彼の声は静寂に吸い込まれていく。
最終的に、彼の意識が沈んでいく感覚がした。
河の流れが強まり、彼は何もかもを失っていった。

数日後、周囲の人々がその公園を訪れたが、何も異常はなかった。
ただの静かな河辺で、風に舞う砂だけが、遠い昔の記憶を語り続けていた。
どこかで今でも、健介の呼び声がこだまし、静寂がその声を包み込んでいるように感じた。
公園は静まりかえり、彼の姿と友人たちの影は、もう永遠に失われてしまった。

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