夏の終わりのある日、拓也と友人の大輔は、海へ行く予定を立てていた。
彼らは早朝から出発するつもりだったが、そんな計画には、どうしても気になっていたことがあった。
拓也は、その日、海の近くにある「電」という不気味な伝説を耳にしていたのだ。
「電」には、かつて砂地に埋もれていた大きな神社があったという。
その神社は時が経つにつれ、周囲の砂に飲み込まれ、誰も近づかない場所になってしまった。
周囲の人々はその神社への興味を失っていたが、拓也たちは友人の興味を引くために、その場所を訪れることを決意した。
朝早く、車で海岸まで向かった拓也と大輔は、ついにその神社があると噂される「電」にたどり着いた。
周囲は静けさに包まれ、海からの風が心地よい。
しかし、砂浜に足を踏み入れた瞬間、何かがおかしいという感覚に襲われた。
砂がどこまでも続いているようで、道路は見当たらず、まるで別の世界に迷い込んだ気分だった。
「拓也、ほんとにここに神社があるのかな?」という大輔の言葉に、拓也は少し不安になった。
スマートフォンの地図を見ながら道を探すが、その場所は示されるが、実際に視認できるものは何もなかった。
「もしかして…、本当に埋まっているのかもな」と拓也はつぶやいた。
その瞬間、彼らの周囲で砂が動いているような気配を感じた。
微かなささやきが耳をかすめ、周りに何かがいるようだった。
拓也は不安を抱えながらも、友人の陽気な性格に引きずられ、神社を探すために歩き続けた。
しばらくして、彼らは一つの彫刻のようなものを見つけた。
それは神社の一部だろうかと思い、目を近づけた。
その瞬間、音もなく砂が彼らの足元から舞い上がった。
まるで何かが反応したかのように、砂が空中を舞い、静かなささやきが響いた。
「誰だ?」大輔は怯えた様子で叫んだ。
拓也は何が起こっているのか理解できず、視線を茫然とさせた。
砂の音とは異なる、何か柔らかな声が明瞭に響き渡った。
「出てきて…私を助けて…」
拓也たちは恐ろしさと共に足がすくみ、その場から一歩も動けなかった。
声はさらに続いた。
「長い間ここに閉じ込められているの…何とかして…この砂の中から出して欲しい…」
大輔は自らの恐怖心を抑えきれず、後ずさり始めたが、拓也はその場に立ちすくんだままだった。
何かがこの、忘れ去られた神社に関わっているのではないかという考えが頭を巡る。
神社の歴史や伝説に何か関連があるのかもしれない。
そして、その声はその伝説の一部であり、何かと繋がっているのだろうと。
「拓也、行こう!もう無理だ」と大輔が叫んだ。
彼に促されるように拓也もようやく我に返り、早足でその場を離れ始めた。
しかし、振り返ると砂はいつの間にか静まり返っていた。
響いていた声もなくなり、ただ静かな海の音だけが辺りを包んでいた。
「何だったんだ、あれは?」大輔は冷静を装おうとしたが、その表情は驚愕で彩られていた。
拓也は答えられずにただ砂浜の方を見つめていた。
彼らは急いでその場を離れ、車へと戻ることにした。
しかし、その道中、何度も振り返るたびに思ったのは、あのささやきの正体が何だったのかということ、そして今後一切その場所には近づかないと決意したことであった。
その後、拓也たちは海での楽しいひと時を過ごすが、あの声は彼らの心にいつまでも残り続けた。
電を訪れたことは彼らの記憶に深く刻まれ、確かに何かが彼らの周囲に存在したことを忘れられずにいた。
そして、帰路につく彼らの耳には、夜の静寂の中でも、かすかなささやきが蘇るように聞こえたのだった。