「砂に囚われた館」

静まり返った館の中、田中という名の青年は、友人たちと肝試しのために集まった。
館は古くからの伝説があり、多くの人がその恐ろしい話を語り継いできた。
特に有名なのは、館の地下に埋まっている「砂」にまつわる秘密だった。

その夜、友人たちは館の外観を見上げ、古びた窓やひび割れた壁を恐れおののきながら笑いあった。
しかし、好奇心が勝り、中に足を踏み入れることにした。
館の中は薄暗く、湿った空気が重く感じられた。
懐中電灯の光が壁を照らすと、塵の舞い上がる様子が見え、館の長い年月を感じさせた。

田中は、友人たちと共に地下室へ進むことを決定した。
誰もが不安を感じていたが、肝試しの興奮でそれを押し殺していた。
地下室の扉を開けると、冷たい空気が彼らを迎え、薄暗く影を落とす階段が続いていた。
彼らは一歩一歩、慎重に下りていく。

地下室に着くと、驚くべき光景が広がっていた。
床一面に細かい砂が敷き詰められ、どうやら長い間誰も踏み入れていなかったようだった。
砂を踏みしめる音が、静かな館の中に響き渡る。
友人の一人、佐藤が砂の上に足を取られ、見慣れない模様を作り出した。

「この砂、何だろう?」と田中がつぶやいた。
その瞬間、周囲の空気が一変した。
まるで砂が自ら動き出すかのように、湿った霊気が漂い、彼の背筋に冷たいものが走った。
友人たちも不安を抱え、じっとその場に立ち尽くす。

「帰ろう、これ以上は危ない」と鈴木が提案したが、なぜか誰も動こうとしなかった。
彼らの視界の隅に、微かに光るものが見え隠れしていた。
それは、まるで人の手のように細かい砂が集まり、形を成しているようだった。

恐れを感じながら、田中は一歩前に進み、その手のようなものに近づいた。
そして、思わずその手に触れてしまった。
その瞬間、砂が一気に彼の手を包み込み、引き寄せられるように地下室の奥へと吸い込まれていった。
田中はその恐怖感から逃げ出そうとしたが、手は離れなかった。

「田中、逃げて!」と友人たちが叫ぶが、館の砂が彼を取り囲み、動きが取れなくなってしまった。
恐ろしい力が彼の身体を包み込み、目の前には砂でできた顔が現れた。
その瞳は真っ黒で恐ろしさを増し、田中は恐怖に震えていた。

砂の顔は、かすかに笑い、低い声で囁いた。
「ここにいる限り、永遠に逃げられない…。お前の恐れを感じ取っている。」田中は必死に抵抗しようとしたが、周囲の砂が彼を捉え、引き離す力に逆らえなかった。

彼は心の中で逃げたい気持ちでいっぱいになり、恐れに押しつぶされそうになっていた。
友人たちもその場から離れ、出口へと走り出すが、彼らもまた砂の力に阻まれ、館の出口が閉じられてしまった。

田中は自分自身が何かに取り込まれつつある感覚に襲われながら、必死に心を奮い立たせ、叫んだ。
「逃げるんだ、僕たちは絶対に逃げられる!」その声は、不思議にも仲間たちに届いたようだった。
彼らは一気に走り出し、出口を目指す。

しかし、館の砂の力は強大で、出口は徐々に閉じていく。
田中は友人たちの叫びと共に、彼自身の恐れを振り払おうと必死になった。
心の中で、「逃げられないものなんてない。私たちの絆を信じよう!」と繰り返し、彼は砂と対峙し続けた。

そして、彼らは最後の力を振り絞り、出口へと飛び込んだ。
一瞬、館の砂が彼らを包み込もうとしたが、田中の強い意志が通じたのか、その力が弱まり、氷のように冷たい風が席巻した。

彼らはついに館の外へとたどり着き、息を切らして立ち尽くした。
後ろを振り返ると、館の砂が一瞬だけ反応し、砂の顔が消え去った。
静けさが戻った館の中で、彼らは何が起こったのかを振り返る余裕もなく、ただ逃げ帰った。

その後、田中たちは二度と館に近寄ることはなかった。
彼の心には、永遠に消えることのない恐怖と、絆の大切さが刻まれていた。

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