静かな山間の小さな村に、スという名の女性が住んでいた。
彼女は村の近くにある大きな石のそばで、毎日のように一人で過ごすことが多かった。
その石は、古くから村の人々に神聖視されており、触れることさえ忌み嫌われていた。
しかし、スはその意義を知らず、その石が放つ神秘的な雰囲気に引き寄せられていた。
ある日の夕暮れ時、スはその石に座りながら、不思議な夢を見始めた。
夢の中で、彼女はかつて村に住んでいたという一人の女性、麗子と出会った。
麗子は悲しげな表情で、スに自分の過去を語り始める。
彼女は村人たちから嫌われ、罪を背負いながら孤独に生きていた。
ある日、麗子は村人たちによって石に封印され、二度と外に出ることができなくなったという。
スはその話に胸を締め付けられ、麗子の苦しみを理解するようになった。
それ以来、スは夢の中で麗子と交信し続けた。
麗子は何度も罪の意識を語り、彼女が背負った重い感情をスに投影する。
スは徐々に麗子のことを好きになり、彼女の痛みを自分の身に感じるようになった。
そして、スの心に芽生えたのは、麗子の代わりに罪を償うという決意だった。
ある日、スは村の祭りで神聖な石を観察していると、突然、村人が現れ、スを非難し始めた。
「お前はその石を覚えているか?麗子の恨みを買った者だ!」彼の言葉に、周囲からも同意の声が上がる。
スはその瞬間、麗子の声が頭の中で響くのを感じる。
「私のことを忘れないで、私の悲しみを背負っておくれ」と。
彼女は恐怖と痛みの中で、自分が何をすべきかを理解した。
数日後、スは村の中心に立ち、麗子の物を持参した。
麗子の過去を祝うために、彼女は祭りで人々に向けてスピーチをした。
「私たちは罪を背負う必要はない、一区画の罪のために同じ場所に存在しているわけではない」と言い放つと、村人たちは戸惑いと驚きで静まり返った。
その夜、再びスは夢の中で麗子と会った。
麗子は涙を流し、「私の恨みは解かれた。あなたが私の代わりに罪を背負ってくれたおかげで、私は自由になる」と感謝の言葉を告げる。
スは自分が麗子のために何かを成し遂げたことを実感し、彼女の心の中にある罪の意識も消えていくのを感じた。
だが、村に戻った彼女には、何かが変わったように思えた。
彼女が口にした言葉は、村人たちの心に影を落とし、気づかぬうちに彼女の存在も薄れていった。
スは麗子のために自らを犠牲にしたが、その行為は結局、彼女自身を封印してしまうものとなった。
ある晩、村の人々が静かに眠る中、スは石の元に戻ると、そこに麗子の姿は見えなかった。
ただ、無残な町に埋もれたかつての記憶が、素朴な石に静かに宿っているようだった。
スは呟く。
「私はあなたを忘れない」と。
その瞬間、彼女は石に吸い込まれるように消えていった。
村の人々は、その夜からスの姿を見なくなったが、石の周りには、彼女の気配が残り続けた。