「瞳の奥に潜む影」

ある夏の夜、太郎は友人たちと一緒に山登りを計画した。
普段は都会の喧騒に囲まれている彼だが、自然の中で解放感を味わいたいと感じていた。
荷物を背負い、バーベキューの材料と飲み物を用意して、夕方から出発。
ビール片手に楽しい時間を過ごすため、山を目指した。

山道を進むにつれ、太郎は徐々に心地よい静けさに包まれ始めた。
しかし、日が沈むにつれて周囲は暗くなり、彼の心に不安が芽生え始めた。
日常を離れた爽快感は消え、何かが彼を見ているような、不気味さがただよう。

一行は目的地のキャンプ場に到着し、焚き火を囲むことにした。
友人たちは笑い声をあげ、話に花を咲かせたが、太郎だけはどこか浮き足立っていた。
彼の視線は、山の奥深くにある暗い木立を捉えていた。
何かがそこに潜んでいる、そんな気配を感じた。

「おい、太郎!大丈夫か?何か見てるのか?」友人の健が声をかけた。
太郎は思わず目を逸らし、震えた声で答える。
「あ、いや、何でもない。」

キャンプが続く中、友人たちが特に恐ろしい話をすると、太郎の心はますます不安に満ちていった。
山には昔から伝わる呪いや霊的な現象があることを耳にしたからだ。
そして、その噂は百年を超えるもので、多くの者が山の深い場所で行方不明になったらしい。

その夜、友人たちが寝静まると、太郎は目を覚ました。
外は静まり返り、夜空に輝く星々だけが彼の心を安らげてくれた。
しかし、ふと自分の周囲を見回した瞬間、彼の瞳は山の奥に引き寄せられるように感じられた。
薄暗い木立の隙間から、かすかな光が微かに見えた。
それは、多くの者が忘れてしまった道の先にある、忌まわしい物のようだった。

興味本位でその光の方へ向かうと、彼はそこで奇妙な物を見つけた。
それは小さな神社だった。
木の根元には捨てられた人形やお守りがあり、どこか不気味さを感じさせるものだった。
しかし、本当に恐ろしいのは、その神社の奥にあったのだ。

中を覗くと、無数の白い瞳が彼を見つめ返してきた。
それはただの人形ではなく、何か生きているように感じた。
自身がそこにいることが許されていないような圧迫感に苦しむ中、太郎は一瞬、自分の瞳の奥にも何か奇妙なものが潜んでいると感じた。
それは、己の中に潜む恐怖感や、それを乗り越えられないままの自分自身だった。

このままではいけないと太郎は思ったが、身体が動かない。
背後からは低い声が聞こえた。
「戻ってこい、私を忘れないで。」それは彼が決して聞いたことのない、震えるような声だった。
急に恐怖が彼の心を支配し、「呪い」という言葉が頭に浮かぶ。
彼は逃げたいが、足が動かず、身動きが取れなかった。

その瞬間、彼の瞳の奥が暗くなる。
友人たちの笑顔や、日常の風景が遠く離れていく感覚。
気がつけば、太郎は神社の前に立っていたが、どうしてここまで来たのか、全く思い出せない。
心の底に引きずられるような、漠然とした不安感が彼を襲った。
彼は自分を忘れないでとは言ったが、果たしてそれが可能なのか疑問だった。

結局、太郎はその後、友人たちのもとに戻った。
その後、彼の瞳は以前とは違う輝きを持っていた。
何かを見つけたような、変わってしまったかのような奇妙な感覚。
友人たちは、彼がどこへ行ったのかわからないまま、笑顔で接したが、心の奥底に何か恐ろしいものが芽生えていることに太郎自身が気づくのは、また別の話であった。

タイトルとURLをコピーしました