ある小さな街の片隅に、いにしえの寺があった。
この寺は、人々の記憶から薄れつつあったが、密かに恐れられていた。
そこには「瞳の間」と呼ばれる部屋があり、誰もがその部屋を通り抜けようとしなかった。
昔、そこに住んでいた僧侶の逸話が語り継がれていたからだ。
その僧侶は、自らの欲望に負け、禁忌に触れてしまったという。
瞳を持つ者に出会うと、その者の心の奥底に隠された恐れを引き出す力を授けられると言われ、その力を利用しようとした。
しかし、その結果、彼は自らも恐れに覆われ、次第に彼自身の瞳が彼を支配するようになった。
そして、彼の瞳は真っ黒になり、まるで暗闇の底を見つめるかのようだった。
ある晩、若い女性が寺を訪れた。
彼女は「瞳の間」の存在を耳にしており、好奇心からその部屋を見に行くことにした。
寺の厚い扉を開けると、古びた空気が彼女を包んだ。
薄暗い中、彼女が目にしたのは、壁に彫られた無数の目だった。
それは、まるで自分を見つめ返しているかのようで、最初はぞっとしつつも、次第にその目に引き込まれていく。
そのとき、彼女の背後で微かな囁きが聞こえた。
「私の瞳を見て」と。
その言葉は、まるで耳元から直接話しかけているように響いた。
恐れを感じながらも、彼女は振り向くことができなかった。
この寺で何が起きているのか、理解できなかったからだ。
しかし、得体の知れない力に惹かれるように、彼女は前に進んでいった。
そして、「瞳の間」の中心に到着すると、そこには一つの鏡が置かれていた。
その鏡には、ぽっかりと穴が開いているように見え、自分の姿を映すことはできなかった。
彼女はその穴に近づき、次第に自分が恐れているものが何かを考え始めた。
それは、失敗や孤独、自分に対する不安だった。
彼女の心の中で、さまざまな恐れが渦巻く。
突然、鏡の中から彼女の瞳が映し出された。
不思議なことに、その瞳には異様な光が宿っていた。
彼女はその光に引き寄せられながら、思わず囁く。
「何が起こるの？」と。
すると、再び声が響いた。
「瞳を覗き込め。恐れはその逆を映し出す」と。
彼女は恐る恐る鏡を覗き込んだ。
その瞬間、光は強くなり、彼女は自らの心の奥に浮かび上がる過去の自分と向き合った。
失敗や孤独、そして失くしたものの数々が、まるで彼女自身を逆さまに映し出すように散りばめられていた。
彼女は涙を流し、その瞬間「もう、戦わなくていい」と思った。
心の痛みが消えていくのを感じながら、彼女は解放された。
しかし、その先には恐ろしい真実が待っていた。
彼女がその感情を受け入れた瞬間、寺の中が静まり返ったように感じた。
彼女が振り返ると、周囲の目が一斉に光を帯びて、自分を見つめていることに気づいた。
すでに数多くの瞳が、彼女を欲しているのだ。
その夜、寺の中ですべてが逆に動き出した。
彼女の瞳はその後、寺の「瞳の間」に閉じ込められ、他の瞳たちの一つとなってしまった。
かつての僧侶がそうであったように、今度は彼女が次の者を呼び寄せる役目を担うのだった。
двери темноты, которые ведут в самое опасное.
