深い森の中に佇む洞窟。
その入口は自然に削られた岩で覆われ、周囲には鬱蒼とした木々が生い茂っている。
誰も近づかないその場所には、ひっそりと一匹の犬が住んでいた。
犬の名はカナ。
彼女は本来の主人を失い、孤独な日々を送っていた。
しかし、カナの目には奇妙な光が宿っている。
彼女はこの洞窟の奥深くに潜む“真実”を知っているかのようだった。
ある晩、若者たちが興味本位でこの洞窟に足を踏み入れることにした。
彼らは口々に怖い話をしながら、懐中電灯の明かりを頼りに深い闇の中を進んでいく。
その中の一人、タカシは特に洞窟に興味を持っていた。
彼は何か特別な場所だと直感し、仲間と共に更なる奥を目指すことにした。
進むにつれて空気が薄くなり、何か異様な雰囲気が漂い始める。
洞の壁には不気味な模様が浮かび、壁を撫でるとひんやりとした感触が指先に伝わった。
若者たちは徐々に不安を抱え始めたが、タカシは興奮が勝り、探検を続けた。
しかし、洞の奥に着くと、そこには何か異変があった。
真っ暗な空間に身を置いていた彼らは、急に耳をつんざくような吠え声が響くのを聞いた。
その声はカナのものだった。
彼女は遠くから忠実に主人を守るかのように、吐き出すように吠えている。
しかし、カナは姿を見せず、暗闇の中に隠れていた。
仲間たちは戸惑いながらも声の方へ向かい、何かを求めて進む。
「この犬、どうしたんだ?」リーダーのユウジは不安そうに言った。
彼は連れを守ろうとしていたが、その心の奥には恐れが渦巻いていた。
「行くぞ、きっと何かがいる。」タカシは意を決して吠え声の方へ進み続けた。
その瞬間、突如として声が凄まじく響き渡り、周囲の空気がゆがんだ。
それは、まるで空間そのものが裂けているかのようだった。
若者たちは立ちすくみ、その恐怖に震えた。
カナの声はさらに激しくなり、彼らの心の奥を揺らし始める。
「来るな!ここには近づくな!」カナが叫ぶ声が響く。
それはまるで呪いのような強い警告であり、若者たちは恐怖に駆られ、逃げるように振り返る。
しかし、洞の壁は急に崩れ、彼らの逃げ道を断ち切った。
不気味な音が響き渡り、空間が彼らを飲み込んでいく。
カナの視線が、まるでこの現象を理解しているように光っていた。
「真実を知っているのか、カナ?」タカシは恐怖に震えながら問いかけた。
しかし、カナはただ黙ってその場に佇んでいた。
まるで彼女が選んだ者だけに真実を見せるかのようだった。
洞窟の奥には、影のような存在が見え隠れしていた。
その存在は、若者たちが忘れた記憶、失われた愛情、そして傷を抱えた心を映し出していた。
彼らが持つ恐れや後悔が、まるで呪いのように彼らを縛り付けた。
タカシは、過去の自身の行いがもたらした結果を目の当たりにし、そこに立ち尽くすことしかできなかった。
「もう、助けてくれ……!」最後の叫びを上げるも、彼の声は洞の奥に吸い込まれ、消えていった。
カナはその姿を見守りながら、心の内で何かを決めたようだった。
彼女は彼らの心の中に宿る“真実”を受け入れる必要があると理解していたのだ。
薄暗い洞の中、再び静寂が訪れた。
カナは洞窟の奥深くに潜り込み、拒絶された思いを抱える者たちに寄り添うことで、新たな守護者となった。
そして、誰もが忘れてしまった真実を知る者として、彼女は永遠の時を生きることに決めた。