真夏のある晩、町外れの静かな村「真夜」に住む佐藤和也は、特別な実験に取り組んでいた。
彼は物理学を学ぶ大学生であり、最近「闇」をテーマにした研究に没頭していた。
研究は、さまざまな方法で「闇」の特性を解析し、そこに潜む未知の現象を計測しようとするものであった。
和也は村の古い神社に伝わる言い伝えに興味を抱き、そこに隠された秘密を解明したいと考えていた。
その神社は、夜になると誰も近づかない場所として知られていた。
村人たちは「そこに行くと帰れなくなる」と警告し、闇の中で何かが待ち受けていると噂していた。
しかし、和也はその伝説こそが彼の研究のヒントになると考え、意を決して神社に向かうことにした。
夜、恐れと期待感を胸に、和也は神社へ足を運んだ。
満月の光がわずかに照らす中、神社の境内に入ると、異様な静けさが彼を包んだ。
人々の囁きや足音は一切聞こえず、まるで時が止まったかのように感じられた。
彼は神社の奥にある古びた社殿に目を向けた。
社殿の扉は粗末で、長年の年月にさらされてきたためか、ひび割れていた。
彼はその扉を押し開け、中に入った。
暗闇の中、蒼白い光が微かに放たれていた。
その光の正体は、神社に伝わる「闇の神」と呼ばれる存在にまつわる祭具だった。
和也は興味深く、祭具の周囲に散らばっていた古い文献を手に取った。
その文献には、被験者が「闇の神」に選ばれた場合、彼らは元の世界に戻ることができないという恐ろしい計測データが書かれていた。
すると、突然、空気が重くなり、和也は背筋に冷たいものを感じた。
彼の周りに渦巻く闇が濃くなるにつれ、視界が奪われていく。
驚愕しつつも好奇心に取り憑かれた彼は、神秘的な現象を測定しようとしたが、気づいた時には神社の扉が閉じられていた。
「戻れない…」和也の心に恐怖が広がる。
彼の周囲に現れた影たちが、彼を取り囲み始めた。
「私たちはここに永遠に囚われている」と囁く声が闇から響いてきた。
彼は「これは偽りだ」と心の中で叫び、必死に出口を探したが、どれだけ探しても見つからなかった。
和也は混乱しながら、そこにいる他の存在たちに尋ねた。
「お前たちはどうしてここに?」すると、その一つの影が答えた。
「私もかつては、闇の法則を解明しようとした者さ。戻ろうとしたが、闇に飲み込まれ、今では永遠にここに囚われている。」
恐怖と絶望が彼を襲った。
彼はもはや逃げられないのか、と思い知らされる。
しかし、彼は決意した。
「私も闇に負けない。何とかしてここから出る。」和也は心の中で図る。
闇の神の力を計測する術を見つけ出すことができれば、この状況を打破できるかもしれない。
然し、まるで彼の思考を見透かすかのように、影たちが囁き続ける。
「偽りの希望を抱くな。ここには戻れない者たちの思念が詰まっている。」和也は、彼らの言葉が真実であることを理解しかけた。
しかし、どうしても諦められなかった。
彼は祭具に近づき、それを利用しようとした。
彼の手が触れた瞬間、漆黒の闇が彼を包み込み、そして彼は意識を失った。
次に目が覚めた時、和也は自宅の布団の中だった。
彼は夢を見ていたのか、と安堵した。
しかし、ふと視線を移すと、祭具が彼のそばに無造作に置かれていた。
彼の研究ノートには、彼があの神社で経験したことが詳細に記されていた。
しかし、彼はふと気づく。
「この現象は本当に計測されたのか?」その瞬間、再び背筋に冷や汗が流れた。
彼は「戻った」と思ったが、「真夜」には、今でも数多くの影がさまよい、時折和也のことを忘れられずに静かに見守っているのかもしれない。
闇の神の存在と、その影たちの囁きは、彼の心の奥深くでずっと続いていた。