ある日、東京の小さなアパートで、大学生の佐藤健太は友人の田中美咲と共に、最近流行りの心霊現象について語り合っていた。
彼らは共に怖い話が大好きで、怪談を聞くことで絆を深めていた。
美咲は、「目に見えないものが存在するのなら、私たちもそれを見てみたい」と言い出す。
その言葉に触発され、健太はある噂を思い出す。
それは「な」という名前の界に存在する現象だと言われるものだった。
その伝説によると、「な」という存在は、特定の目の前で現れるという。
目を奪われると、その人の意識が「な」の世界に引き込まれ、他の人とは違う境界に立たされるのだ。
その界の中では、過去や未来を見ることができ、誰かとの絆を深めることもできるが、同時にそこから出ることができなくなる危険が待っているとも言われていた。
好奇心に駆られた健太と美咲は、その夜、アパートの一室で「な」を呼び出す儀式を行うことにした。
二人はろうそくを灯し、静寂の中で手を繋いだ。
健太は心の中で「な」に向けて呼びかける。
「私たちを導いてください」と。
すると、突然、部屋の温度が下がり、無音の中に微かな声が響いた。
「目を閉じて、私の声を聞け」と。
怯えながらも目を閉じた瞬間、健太は何かに引き寄せられる感覚を覚えた。
彼が目を開けた時、そこは暗闇の中の異空間だった。
かすかな光の中に、彼は美咲の姿を見つけた。
彼女はどこか浮かない表情をしており、何かを恐れているようだった。
健太は彼女の手をしっかりと握り返す。
「大丈夫、僕がいるから」と励ました。
だが、彼が見たものは決して「大丈夫」とは言えなかった。
異空間の周りには、たくさんの目が浮かんでおり、彼らをじっと見つめていた。
それぞれの目は異なる色をしており、まるで彼らが持つ秘密を見透かされているかのようだ。
美咲は恐れを感じ、声を震わせながら言った。
「これ、やっぱり間違ったんじゃない?出られなくなったらどうしよう…」
その瞬間、健太は「な」の声を再び聞いた。
「絆を試す時だ」と。
それは彼らの心に響くような声だった。
周囲の目たちが突如近づき、彼らの意識に侵入してくる。
目に映る景色が変化し、彼らの過去の思い出が次々と浮かび上がる。
健太は、高校時代の美咲との思い出に浸っていた。
彼女との楽しい時間が、心に温かさを与える。
しかし次の瞬間、目の色がどす黒く変わり、彼の記憶に秘めていた恐怖が浮かび上がる。
健太は、美咲を傷つけた過去の自分を見せつけられた。
美咲は、それを見た瞬間、悲しみの目で健太を見つめた。
「どうしてそんなこと…」その言葉は、彼の心を深くえぐるように感じられた。
彼らは互いの過去を見せ合うことで、絆を試されているのだと悟った。
美咲は涙を流しながら、心の奥底から叫んだ。
「もう一度やり直せるはずだ!」その瞬間、目たちが彼らを包み込み、冷たい感覚が彼らの心を掴んでいった。
「な」の声が響く。
「強い意志が必要だ、未来を選ぶのはお前たちだ」と。
健太は美咲を見つめ、彼女の目が希望に満ちていることに気づいた。
彼は思いを強くし、声を張り上げた。
「出よう!私たちの未来を信じよう!」
周囲の目たちが一瞬戸惑った後、彼らは徐々に遠ざかり始めた。
そして異空間が急速に崩壊し、健太と美咲はもとのアパートの部屋に戻った。
深い息をつき、お互いの手をしっかり握りしめる。
暗闇の中で見た恐怖と、その経験が二人の絆をさらに強めていた。
彼らは、どんな試練が待ち受けていようとも、共に立ち向かっていくことを誓ったのだった。