時は現代、ある小さな町の片隅にひっそりと佇む古びた病院があった。
その病院には、誰もが恐れる不気味な噂があった。
かつて、ここで多くの患者が無念のうちに亡くなり、その魂が今もなお病院の中をさまよっていると言われていた。
この病院を訪れた者は、決して何かを持ち帰ることはできず、逆に心に深い闇を宿して帰るのだという。
主人公の健一は、大学生でありながら少々心霊現象に興味があった。
だが、彼の好奇心は周囲の反対を物ともせず、ついにその病院に足を運ぶ決意を固めた。
友人の明美を誘い、二人は夜の静けさに包まれた病院へと向かった。
「こんなところ、来るんじゃなかったかも…」明美の声には、緊張と恐怖が混じっていた。
しかし、健一はただ笑い飛ばし、明るく「大丈夫だよ、ただの噂さ」と言い放つ。
夜がさらに深まるにつれて、二人は病院の中に足を踏み入れた。
薄暗い廊下には、かつての患者たちの呻き声が耳に残る。
冷たい空気が肌を刺し、二人の心が不安でゆり動かされる。
進むに連れて、壁にかけられた古い写真がその目を惹きつけた。
白黒の写真にはかつての患者たちの笑顔が映し出されていたが、よく見ると、その目が不自然に光を帯びているように見えた。
「なんか、気持ち悪いねこの写真…」明美が後ずさる中、健一はそのまま先へ進んだ。
彼はこの病院において、何か特別な体験ができるのだと、ワクワクしていた。
すると、突然、目の前の廊下がさわがしくなり、足音が響き渡った。
「誰かいるのか?」二人は身をすくめ、恐れおののきながら、それでも声の方向に向けて進むことにした。
その声は、どこか遠くにあるようでありながら、何か惹きつけられるものがあった。
ついに数分後、二人は一室に辿り着いた。
そこには、無造作に乱れたベッドが一つ、そして薄暗い灯りが flickering していた。
健一は恐る恐る近づき、部屋の中を見渡した。
すると、過去の記憶が彼の中に流れ込み、亡くなった患者たちの声が耳元でしきりに囁いた。
「ここに留まってはいけない…」
明美が突然声を上げた。
「健一、後ろ!」彼は慌てて振り向いた。
その瞬間、そこには無表情な女性の霊が立っていた。
彼女の両目は虚ろで、まるで何も見えていないようだった。
しかし、健一にはその目が彼をじっと見つめているように感じられた。
彼は恐怖で身動きが取れず、暗闇に引き込まれるような気がした。
明美が震えながら声を上げる。
「ここはまずい、逃げよう!」二人は急いで部屋を飛び出し、廊下を走り続けた。
だが、静寂を破るかのように、背後から彼女の呻き声が聞こえてきた。
「戻って…私と一緒に…」
ようやく出口にたどり着くと、ベランダへ飛び出した健一と明美は、心臓が破裂しそうな程の速度で息を切らしていた。
しかし、振り返ると、その女性の霊は病院の中に消えていった。
その瞬間、健一は何かを持ち帰る覚悟をしていた。
それは、彼の心の奥底に潜む闇のようなものだった。
数日後、彼の心の闇は深まる一方だった。
友人たちとの関係も次第に希薄になり、彼に向けられる視線は冷たいものばかりだった。
明美も不安を抱え、彼から距離を置くようになってしまった。
「どうしてこんなことになったのか…?」
彼は自問自答するが、答えは見つからない。
過去の悲劇と、その影に引き込まれたことが彼の心を蝕んでいった。
結局、あの病院で遭遇した女性の霊は、彼の心に深い闇をもたらし、そして何も残さず奪い去ったのだった。
病院の噂は決して消えることはなく、いつまでも健一の胸に響き続ける。
彼がこの町を去ることができるのか、それともさらなる闇に飲み込まれるのか、運命は彼自身の手に委ねられていた。