ある静かな村の片隅に、古びた家屋があった。
その家には、畳で覆われた部屋が一つあり、その部屋には長い間、人が住むことはなかった。
その理由は、村では「呪われた家」として知られていたからだ。
ある日、若い男性の佐藤は、友人にその話を聞かされ興味を抱いた。
村を訪れると、彼は呪われた家を見つめていた。
周囲はひっそりとしており、まるでその家自身が静かな叫びを上げているようだった。
友人たちは彼を止めようともしたが、佐藤はその家に足を踏み入れる決意をした。
畳の部屋に入った瞬間、彼の心に不安がよぎったが、そこには何か強い吸引力があった。
部屋には、色褪せた障子の向こうに、大きな書きかけの巻物が置かれていた。
彼はその巻物に近づき、紙の上に書かれた文字をひらがなで読み上げてみた。
「この家に住む者には、二つの条件を守ることが求められる…」
突然、畳の上に黒い影が揺れ動いた。
佐藤は驚いて目をひん剥いた。
影はまるで何かを訴えかけるかのようにうねり、言葉にならない声が響いた。
「逃げろ…逃げろ…」。
彼は何かに取り憑かれたかのように畳の上を歩き続け、巻物を手に取った。
条件の内容は次の通りだった。
「一つ目、夜の帳が下りる前に、必ずこの家を出ること。二つ目、決してこの家の秘密に触れてはならない。」
しかし、興味が勝ると同時に恐怖が彼を押し潰そうとしていた。
夜が迫るにつれ、彼はどこか心惹かれるように巻物を再度見つめた。
「この家は、何か隠しているのかもしれない…」と思い、ついにその巻物を開く決心をした。
すると、その瞬間、バキッという音と共に畳が揺れ始め、彼の足元に一瞬で罠が仕掛けられたように感じた。
彼は体を支えきれず、畳に倒れ込み、目の前が暗くなった。
目を開けると、彼は周囲が薄暗く、死んだような静寂が広がっているのに気づく。
声が聞こえない。
彼は恐る恐る辺りを見渡すと、壁には無数の罠が仕掛けられ、天井には古い絵が貼り付けられ、まるで彼を見下ろしているかのようだった。
その絵の中には、何人もの人々が描かれており、彼らの目はどこにも助けを求めるような表情を浮かべていた。
「私は…どうなってしまったんだ?」彼は呟きながら立ち上がり、出口を探し始めた。
しかし、その瞬間、巻物の内容が彼の頭の中で再生された。
「必ずこの家を出ること、秘密に触れてはならない」。
彼は足元の畳に目をやった。
そして、幕をはぐった瞬間、彼の目の前に現れたのは、かつてこの家に住んでいた者たちの霊体だった。
彼らは無表情で佐藤を見つめ、まるで彼を取り囲むように迫ってきた。
「あなたもここに留まりたいの?」一人の霊が囁いた。
その声は、まるで牢獄のように彼の心を捕らえた。
命がけの選択を迫られた彼は思わず逃げ惑い、暗闇に飲まれるように走り出した。
恐怖に駆られた彼は、家の出口を目指した。
幸運にもドアを開け、外の光に一歩踏み出したとき、背後から怒声が響いた。
「条件を破った者には、帰る権利は与えられない!」その言葉が響くたびに、彼の心の奥深くに恐怖の爪が食い込んでいった。
彼はその声が追いかけてくるのを感じながら、再び振り返ることなく全力で逃げ続けた。
村の外に出たとき、彼は振り返り、呪われた家を見つめた。
それはただの家ではなく、恐ろしい運命と秘密を抱えたものだと彼は理解した。
入ったが最後、そこから何年も抜け出せない者たちが、永遠にその場所にとどまらなければならないことを。
その後、佐藤はこの出来事を決して人に話すことはなかった。
彼の心には、その日までの影がずっと残り続け、時折、夢の中で黒い影が訪れるという悪夢にうなされることになった。