ある静かな冬の晩、友利健二は、古い館に足を踏み入れた。
彼は友人から、この館には特別な「間」があるという話を聞いていた。
この館は数十年前に一人の著名な画家によって建てられたもので、彼の作品が館のさまざまな場所に飾られている。
しかし、友利はその館には美術館のような雰囲気だけでなく、不気味な空気も感じていた。
館の中に入ると、薄暗い廊下が広がっている。
そこには、彼の目に奇妙な絵が映った。
それは、不気味でありながらも美しい女性の姿を描いたもので、見る者の心を捉えて離さない。
友利はその絵の前で立ち止まり、どこか惹かれる思いを抱いたが、同時に底知れぬ恐怖も感じた。
その瞬間、空気がぴんと張り詰めるように感じた。
次の瞬間、友利の背後で重い木の扉がきしむ音がした。
振り返ると、そこには誰もいない。
ただ、自分一人だけが廊下に取り残されている。
友利は一瞬気を失いそうになったが、心を落ち着け、再び絵の方に目を戻す。
すると、女性の目が自分をじっと見つめ返しているかのように感じ、冷たいものが背筋を走る。
「ここには、私の声を聞く者がいないのですね…」ふと、耳元で囁くような声が響いた。
友利は驚き、辺りを見渡したが誰もいない。
彼は恐れを感じながらも、その声に導かれるように、さらに館の奥へと進んでいった。
歩を進めると、大きな間を持つ部屋に辿り着く。
部屋の中央には、かつて祭壇として使われていたのか、古びた木製のテーブルが置かれていた。
その上には、無造作に置かれた色とりどりの花が散らばっており、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。
友利はその花を手に取った瞬間、頭の中に過去の記憶が蘇る。
不気味な夢の中で見た異界の風景が、彼を包み込んでいく。
「あなたも、私を呼んでいるのですか?」再び耳元で呼ぶ声が響いた。
友利はその声に惹かれ、何かに導かれるようにそのまま椅子に腰を下ろした。
心の中に渦巻く感情は、恐怖ではなく、どこか安心感をもたらしていた。
「そう、私の間にいる…」その声は徐々に甘く、心地よいものに変わっていった。
友利は自分の中にある「間」を見つけた。
夢と現実が融合し、その境界が曖昧になる。
「私はあなたを求めている、教えてほしい」と心の声が響いた。
すると、目の前に女性の影が現れる。
その影は徐々に形を成し、実在の人物となった。
彼女は友利を見下ろし、目を細めて微笑んでいる。
「私の存在は、あなたの内にある間。私を信じて、一緒に来てください。」彼女はそう言いながら、少しずつ近づいてきた。
友利はその手を伸ばし、彼女に触れようとした瞬間、光が彼を包み込む。
目を開けると、彼は再び館の玄関の前に立っていた。
館は静まり返り、星の光が彼を照らしている。
しかし、心には彼女の声が残っていた。
「あなたと私は、異なる次元で繋がっている。」友利はその言葉を思い返し、心の奥に別の「間」が存在していることを感じていた。
それ以降、彼はその館に再び足を運ぶことはなかったが、心の中に残った彼女の存在は、いつまでも彼を見守るかのように感じられた。
彼は、日常の中で彼女との「間」を思い出し、いつか再び彼女と出会うことを夢見るのだった。