ある晩、東京の静かな住宅街に、佐藤大輔という若者が住んでいた。
彼は大学を卒業したばかりの就活生で、毎日のように面接や試験に追われる日々を送っていた。
そんな合間に、彼は子供の頃からの親友である健一と頻繁に連絡を取り合っていた。
二人は高校時代、部活で共に苦楽を共にした仲であり、その絆は強かった。
しかし、成人を迎え、それぞれの道を歩む中で次第に互いの生活が忙しくなり、連絡が途切れがちになっていた。
ある夜、大輔は家で一人、パソコンの画面に向かっていた。
過去の思い出を掘り起こすと、健一との楽しいやり取りや、笑い合った日々が次々と思い出されてきた。
「最近、健一とは全然会ってないな」と、ふと感じた。
彼はスマートフォンを取り出し、健一にメッセージを送った。
「久しぶり！今度、飲みに行かない？」しばらくの間、返信がなかったが、わずかな時間の後、健一からのメッセージが届いた。
「ごめん、大輔。今、ちょっと忙しくて…。また今度。」その短い返答は、いつも通りの健一らしさを感じさせたが、どこか冷たくも思えた。
その晩、大輔は気分を変えるために、近くの公園に散歩に出かけることにした。
月明かりに照らされた静かな公園は、どこか心地よい。
ふとベンチに座って、夜の空を見上げると、歓声が聞こえてきた。
「大輔！」振り向くと、そこには健一が立っていた。
驚きと喜びが交差する。
「健一、どうしてここに？」大輔は心から嬉しそうに叫んだ。
しかし、二人の距離は少しずつ離れていった。
健一の目はどことなく虚ろで、言葉も途切れがちだった。
「ちょっと…、話があるんだ」という健一の言葉が、大輔の耳に違和感を与える。
「何かあったのか？」と尋ねると、健一は沈黙した。
その瞬間、周囲の空気が変わるのを感じた。
公園の風が急に冷たくなり、いつの間にか辺りは静まり返っていた。
「私が、今ここにいる理由を知っているか？」と健一が言った。
その言葉の意味が理解できず、大輔は戸惑った。
「え、何を言っているの？お前、そんな風に話す奴じゃなかっただろ？」しかし、健一のその視線はより一層冷たく強く、大輔は息苦しさを覚えた。
「実は、俺、異世界に繋がる扉を見つけたんだ。」突然の言葉に大輔は目をぱちくりさせた。
「異世界？なに言ってるんだよ。」健一は冷静に、しかしゆっくりと話し始めた。
「俺は、そこに行ってしまったんだ。そして、自分が帰るために、大切なものを失わなければならないんだ。」
この言葉に、大輔は背筋がぞっとした。
健一は、彼が本当に大切に思っている存在を感じる一方で、その変わり果てた姿に心が重たくなっていくのを感じた。
「俺は、何を失うっていうんだ？」大輔は思わず問いかけた。
健一はその問いに対して微笑みながら答えた。
「お前との絆だ。今、俺がここにいるのは、お前が俺を忘れられない限り、一緒にいられるからだ。」
この瞬間、大輔は何か大切なものが失われそうな予感がした。
「健一、そんなこと言わないでくれ！お前のことは絶対に忘れない！」叫ぶように言ったが、健一はその声をただ笑って受け止めた。
「だから、さよならだ。お前は生きるべきなんだ。」
次の瞬間、健一の姿は霧の中に溶けていくように消えてしまった。
大輔は目の前に健一がいないことに気づき、悔しさと恐怖で涙が流れた。
「健一！」と叫ぶが、もうその声は風に消えてしまった。
彼の中に残ったのは、一生消えないであろう絆の痕跡だった。
その後、大輔は健一との思い出を胸に、辛い就活を続けながら、決して彼を忘れないと心に誓った。
しかし、その夜から、大輔の夢の中には健一が何度も現れ、異世界の扉の向こうで彼を見つめているのだった。
そして、その夢は、彼にとって大切な絆を思い出させるものであり続けるのだった。
