「界を越えた失踪」

昔々、静かな田舎町に「検」と呼ばれる名の神社があった。
この神社は平穏な日常とは裏腹に、恐ろしい噂が絶えなかった。
訪れる者は、必ず何かを失うと言われていたのだ。
ある日、高校生のカナは友人と肝試しをすることになり、その神社を訪れることにした。

その夜、月明かりの下、友人たちとともに神社の境内へ足を踏み入れたカナは、どこか不気味な空気を感じた。
「ねえ、ここ、本当に大丈夫?」と友人の一人が言う。
彼女は笑って答えた。
「大丈夫よ、ただの噂じゃない」

しかし、神社に近づくにつれ、カナの心にさざ波のような不安が生まれた。
「失う」という言葉が頭をよぎる。
友人たちが神社の奥へ進むのを見つつ、彼女は何かが待ち構えている予感に襲われる。
境内の古びた鳥居を抜けると、静寂が彼女たちを包み、まるで時間が止まったかのように感じられた。

ある声が響いた。
まるで幻聴のようだった。
「お前は何を求めるのか」と。
恐れを感じたカナは、友人たちが何も聞いていないことに気づく。
彼らは楽しそうに笑い、恐怖を感じていないかのようだ。
その瞬間、カナの中で何かが変わった。
少しずつ心の中で、何かを求める声が強まる。
「失うことを恐れるな」

その時、宙に浮かぶ神社の界が光を放ち、幻想的な景色が広がったが、同時に彼女の体が重く感じ、視界がぼやけていく。
カナは友人たちの姿が流れていくのを目の当たりにした。
彼女はそれを強く引き寄せようとしたが、何も掴めない。
無情にも、彼女はその境界を越えてしまっていた。

目を開けると、彼女は神社の境内に一人佇んでいた。
友人たちの姿はどこにも見当たらない。
慌てて神社の出口に向かうも、厳重な界に阻まれ、なんとも言えない不安が彼女を襲った。
「彼女たちはどこに?」自問自答するも答えは見つからない。
逆に、自分が何かを失ってしまったことを肌で感じ始める。

数日後、カナは日常を取り戻そうと努力していたが、心の中には空虚感が広がるばかりだった。
友人たちが失われたという記憶の片隅に、無意識に彼女はその存在を思い出していた。
彼女が失ったのは、ただ友人たちだけではなかった。
「私は何を求めていたの?」と、自問自答するカナ。

ようやく彼女は気づく。
自分が失ったのは、友人たちとの絆だけではなく、自分自身の一部だったのだ。
それは決して取り戻せないものだった。
彼女が神社に足を運び、「検」の言葉にあらがった時、すでにその界は彼女を捉えていた。
彼女は自らの選択で失ったことを理解し、彼女の心の奥底には「失うことを恐れるな」という声がこだましていた。

それ以来、カナは夜になると神社の夢を見た。
友人たちと笑い合っている夢だった。
しかし、その笑顔の奥に潜む影は、決して触れることのできない、失った何かを示しているように感じられた。
様々な恐怖が彼女を苛み、彼女の心の中の界は、決して解けることのない重いストーリーとして現実となっていた。
「失うことを恐れるな」と言われた声。
その背後には、思いもよらぬ真実が潜んでいたのであった。

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