彼の名前は和也。
彼は大学生で、友人たちとともに夏休みの旅行に出かけることを決めた。
行き先は、北海道の静かな山奥にある古い集落だった。
日常を離れ、自然の中でのんびりとした時間を過ごすつもりだった。
集落に到着すると、和也たちはその風情に魅了された。
古びた家々が並び、まるで時間が止まったかのようだった。
夜になると、あたりは真っ暗になり、星空が広がった。
和也たちは集落の外れにある空き家に宿泊することにした。
流れ星を見ながら焚き火を囲み、楽しい会話を続けた。
しかし、振り返ってみると、和也は空き家の中で妙な気配を感じ取っていた。
時々、誰かの視線を感じる気がしてならなかった。
また、彼が見つけた古い日記帳には、かつてこの集落で起きた不気味な事件が記されていた。
それは、住民の一人が神主によって生け贄にされるという、忌まわしい儀式に関する記録だった。
さらには、その生け贄を求める声が、今でも聞こえるという話もあった。
和也は興味を持ち、友人たちにこのことを話したが、彼らは冗談として受け流した。
しかし、彼は気になることがあった。
その夜、焚き火を囲んでいると、ふとした瞬間に耳元で「和也…」とささやく声が聞こえた。
驚いて振り返るが、誰もいない。
ただ、風の音だけが静かに流れていた。
翌日、和也は友人たちを誘って、集落の周囲を探検することにした。
彼らは神社の跡を見つけ、そこは薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
周囲には木々が生い茂り、聖なる場所とは思えないほどの不気味さを持っていた。
和也は、あの声がこの神社の近くから聞こえたことを思い出し、不安が募った。
友人たちは無邪気に笑いながら探索を続けたが、和也の心には緊張感が拭えなかった。
ほどなくして、友人の一人が道を外れて、森の奥へと進んでしまった。
彼を追いかけたが、どこを探しても見つからない。
和也は、次第に不安に駆られ、友人を呼び続けた。
「いくらなんでも、こんなところから出てくるはずがない」と彼は自身を励まし、一旦合流するために集落に戻ることにした。
ところが、集落に戻ると、奇妙な光景が広がっていた。
人々が何かの儀式を行っているように見え、大きな石の前に人が立っていた。
その人は、目が虚ろで、まるで夢の中にいるかのようだった。
和也の心臓は高鳴り、絶望的な気持ちが襲った。
周囲の人々が彼の視線に気づき、一斉に和也を見た瞬間、彼は逃げなければならないと思った。
彼は勢いよく走り出し、再び森の奥へと逃げ込んだ。
しかし、そこには不気味な影が彼を追いかけてくるようだった。
木々の間からは、囁く声が聞こえた。
「和也…お前も私たちの仲間になる運命なのか…」和也は恐怖で心が張り裂けそうになり、全速力で森を進んだ。
やがて彼は一つの小道に迷い込み、そこは薄暗く、道の端には神社の石が立っていた。
そして、彼はその石の前に立たされた。
その瞬間、彼は気づいた。
その石は、日記帳に記されていた生け贄を捧げる場所だった。
そして、彼はその罠にかかっていることを悟った。
最後に、和也は全力で叫んだ。
「助けてくれ!」しかし、誰も応えてはくれなかった。
彼は気を失いそうになり、再び目を開けると、周りは闇に包まれていた。
彼の心の中には、「忘れられない」という思いだけが残っていた。
彼は生け贄として、永遠にこの地に囚われることになるのだった。