「理の体が現れた道切れ」

小さな村の外れに、長い間使われていない古い道があった。
村人たちはその道を「道切れ」と呼び、近づくことを避けていた。
そこにはかつて、数人の行方不明者が出たという噂があり、特に若い人々はその話を聞くたびに恐れを抱いていた。
しかし、高校生の難波拓海は、その好奇心から道切れの存在を無視できなかった。
彼は、友人の翔と梨花を誘い、真相を確かめることにした。

「怖いことなんてないって。単なる噂さ」と拓海は言い、二人を安心させようとした。
しかし、内心では彼自身も不安を抱いていた。
深い森に囲まれた道切れを、彼らは夕方に訪れた。
夕焼けが空を染める中、不気味な静けさが二人を取り囲む。

道に足を踏み入れた途端、だんだんと重苦しい空気が漂ってきた。
あたりは不気味なほど静まり返り、かすかに肌に感じる風はどこか冷たい。
拓海は意を決して進むことにしたが、子供の頃から語り継がれてきた伝説が頭をよぎる。
道切れでは「理の体」が現れるという。
その存在は、警告なしに訪れる者たちに恐怖を与えると噂されていた。

「拓海、本当にやめたほうがいいよ。なんか怖い…」と梨花は声を震わせながら言った。
彼女の不安が彼自身にも伝わり、拓海は一瞬立ちすくんだ。
しかし、「大丈夫だよ、ちょっとだけ見てみよう」と無理に前に進む。

その瞬間、背後から微かに声が聞こえた。
「何故来たのか、答えよ」。
声の主は見えなかったが、無表情な音色が彼らの心をざわつかせた。
翔は「もう帰ろう」と言い出したが、拓海は立ち止まったまま、妙な好奇心に駆られていた。

道を進むにつれ、周囲の風景が変わっていく。
今までの森とは別の、異次元の世界に足を踏み入れたような感覚がする。
「これは…夢?」拓海は口にした。
まるで時間の流れが止まったようだった。
彼が前を向くと、目の前には一人の少女の姿があった。
彼女の目は空虚で、笑みを浮かべているが、それは真実の笑顔ではなかった。

「たいこう、あなたたちの来る場所ではない」と、彼女は真顔で言った。
その瞬間、拓海の脳裏に「理の体」という言葉が浮かんだ。
彼女はその存在かもしれないと直感した。

「何を求めてきたのか。知識?冒険?」少女はさらに問い詰める。
拓海は言葉に詰まり、心の奥に潜む恐れが彼に襲い掛かった。
「ただ、恐れの正体を知りたかっただけだ」と答えようとしたが、その言葉は虚しく響いた。

「あなたたちが求める真実は、恐怖そのものだ」と少女は言い、背筋に冷たいものが走った。
拓海は思わず後ずさり、梨花と翔も驚愕の表情を浮かべている。
彼らの目の前に現れたその存在が、まさに「理の体」であることは明白だった。

その瞬間、あたりが急に暗くなり、道が崩れ始めた。
拓海たちは逃げようとしたが、動けなかった。
しだいに強い圧迫感が彼らを押し潰すように迫っていた。
翔が叫ぶ。
「早く、逃げなきゃ!」しかし、彼らの足はまるで地面に縫い付けられたかのように動かなかった。

「恐怖は現実のものとなる。さあ、試みよ」と少女の声が響いた。
地面が裂け、彼らの周りには無数の影が現れ、彼らを捕らえようと手を伸ばしてきた。
拓海は恐怖と絶望に苛まれ、「逃げて!」と声を張り上げるが、その声も消えていく。

やがて、拓海の意識は遠のいていき、彼はただ目の前の少女を見つめた。
彼女の冷たい笑顔は、まるで自らを封じ込めるために存在しているかのような憐れみを含んでいるように感じられた。
彼は気づく。
「恐れを知り、その果てに待つ真実が、恐怖そのものであった」と。

そして、彼らは二度と道切れに戻ることはなかった。
村人たちには新たな噂が流れ、彼らの行方を尋ねる者も次第にいなくなっていった。
しかし、古い路の奥には、今も少女の笑い声が響いていると伝えられている。

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