「猫神の約束」

深い闇が広がる神社の境内。
人々の記憶から薄れゆくその場所には、いにしえの神が住まうと言われていた。
古びた鳥居をくぐると、どこからか猫の鳴き声が響いてくる。
誰もいないはずのその神社に、一匹の黒猫が佇んでいた。
名前はミケ。
彼女はその神社の神の使いとされ、長い間その地を見守っていたが、人間の営みが薄れ、その姿を知る者は少なくなっていた。

ある夏の夜、大学生の悠斗は友人たちと肝試しをするために、その神社を訪れた。
「ここが神社の噂の場所か…。確かに雰囲気が不気味だな」と、悠斗は口にした。
友人たちは盛り上がり、その場でおどけながら息を荒げていた。
鬼ごっこのように神社の境内を駆け回り、月明かりの中、彼らはかつてないほどの恐怖を感じていた。
しかし、悠斗だけはその場の異様さを感じ取っていた。

ふとした瞬間、悠斗は視界の隅に黒猫・ミケの姿を見つけた。
彼女は悠斗をじっと見つめており、その目はまるで彼を歓迎しているかのようだった。
悠斗は思わず近寄っていった。
「お前、ここに住んでるのか?」と声をかけると、ミケは不思議そうに首を傾げた。
その時、彼の心に何かが響いた。
「この場所に来るのは…運命なのかもしれない」と、悠斗は思った。

深夜が近づくにつれ、友人たちは一人また一人と帰ることを決めていった。
悠斗だけが最後に残り、さらに深い森の中へ踏み込んだ。
月明かりが薄暗い木々の合間をすり抜け、彼はある奇妙な光景に目を奪われた。
それは古ぼけた神社の祭壇で、何かが動いている。
冷たい空気の中、ミケがその祭壇の前に立ち、静かに何かに呼びかけていた。

その瞬間、悠斗は背筋が凍る感覚を覚えた。
彼の目の前に、神が姿を現した。
白く輝く神のような存在は、やがて高い歓声と共に猫の姿に変わり、ミケだった。
驚きのあまり言葉を失う悠斗に、ミケは告げた。
「この神社を守る大切な役目を終えるため、あなたの力を借りたいのです。あなたもまたこの場所と深く結びついているから。」

その言葉と共に、悠斗の中に何かが目覚めた。
祖父から伝わる家族の歴史、ひっそりと響いていた「神に仕える者」の物語。
悠斗は、自分がこの神社の守り手となる運命を背負っていることに気づいた。
ミケのためにも、この神社を再生させることを決意した。

その後、悠斗は毎晩神社に通い、献身的に手入れを始めた。
再び人々が訪れるように、神社の復興を目指した。
しかし、ある晩、悠斗は近くの村で奇怪な現象が起こっていると聞かされる。
人々が不安にかられ、神社へ詣でる者たちが増えていた。
何かが神社の奥で起きているのだと感じ、悠斗は恐れながらもその夜、神社に向かう。

神社の祭壇には再びミケの姿が。
彼女は静かに目を閉じ、悠斗に語りかけた。
「私の力が消えそうです。このままでは神社は永遠に消えてしまう。あなたが私を守るための力を授かることが必要です。」悠斗は決意を固め、ミケに近づいた。
「私は必ずこの場所を守る。そして、皆にこの神社のことを伝えていく。」

ミケは嬉しそうに微笑み、悠斗の手を優しく触れた。
その瞬間、悠斗の中に溢れ出る感覚があった。
彼は神社の一部となり、古代の神々と結びついていくのを感じた。
以来、悠斗は神社の守人としての使命を果たし、夜な夜な祈りを捧げ続けた。

月日が経ち、悠斗の真摯な努力によって神社は再生されただけでなく、訪れる人々も増えた。
その姿を見つめる中で、ミケは悠斗が背負った運命の重みを実感し、喜びをもって消え去っていった。
そして、悠斗もまた、いつの日かこの神社の神として生き続けるのだと心に誓った。
神の使いとして、これからの人々に「神の力」を伝え続けるために…確かな足取りで。

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