「猫を探す祖母の影」

舞台は離れた村、静かな山間にひっそりと佇む家だった。
この家には、長い間誰も住んでいないような、古びた雰囲気が漂っている。
入ると、薄暗い廊下が続き、色あせた壁には、家族写真がとりならんでいる。
それに写るのは、かつてこの家に住んでいた人々。
特に、祖母の笑顔が印象的だった。
彼女は、周囲の者からとても愛されていたという。

村人の中には、この家にまつわる奇妙な噂が広まっていた。
ある夜、祖母が愛してやまなかった猫が失踪して以来、家は不気味なものに変わったという。
祖母はその猫を探し続ける姿が伝えられており、「猫を探している祖母の姿が山の中に見える」という話は、子供たちの間で語り草になっていた。

ある日、和樹という若者がその村を訪れることになった。
彼は写真を撮るのが趣味で、廃墟や古い家に興味を持っていた。
彼は、村の人々に勧められてその古びた家を訪れることにした。
彼の心は期待で膨らんでいた。
誰もいない静かな空間で、様々なものを撮影し、その記録を心に刻む。
そして、村人からの注意ではあったが、彼はその猫の噂に特に興味を持った。

その晩、和樹は家の中でひとり写真を撮っていた。
冷たい風が吹き込み、窓が微かに揺れた。
彼は夢中でシャッターを切り続け、周りの音を忘れていた。
しかし、ふと耳にした声に驚く。
「にゃー…」その声は、猫の鳴き声だ。
「まさか、本当にいるのか?」和樹は撮影を中断し、声の方へと向かう。

声のする方へ進むと、そこには薄暗い廊下が続いていた。
影が動くのを感じ、和樹は歩を進める。
心臓がドキドキする。
彼は、猫を探している祖母の姿を思い浮かべながら、声を追って廊下の奥へ向かう。

やがて、彼は一室にたどり着いた。
部屋の中央には、薄紫色の光が漂っており、その中には白い猫が映っていた。
その猫は、まるで祖母の姿を探しているかのように、あちこちを見回している。
「この猫が…」思わず声を上げる和樹。
しかし、その瞬間、彼は背筋が凍るような感覚に襲われた。

猫の周りの空気が変わり、変わり始めた。
まるで何かが動いている。
次の瞬間、和樹の目の前に祖母の姿が現れた。
その顔には驚きが漂うが、どこか寂しさもあった。
和樹は目をこすり、夢か幻かと思ったが、祖母の姿は明確だった。
「おかえり、和樹…」と祖母が呟く。

彼は言葉を失い、その場に立ち尽くしてしまった。
「どうしてここに…?」和樹が息を呑むと、祖母は静かに答えた。
「私の猫が帰ってくるのを待っているの…」その言葉は、重く心に響いた。
彼は、村人の話を思い出した。
祖母は長い間、愛する猫を探し続けていたのだ。

和樹は、その瞬間、目の前の光景が変わるのを感じた。
猫の姿が消え、部屋は暗くなり、祖母も薄い霧のように溶けていった。
「また会える…?」和樹は叫んだが、声は消え、静寂が戻ってきた。
祖母の姿は無く、ただ冷たい風が吹き抜けるような感覚だけが残った。

翌朝、彼はその家を後にした。
村の人々に祖母のことを話し、やはり皆がその言葉に驚きを隠せなかった。
和樹はその日から、自分の中に何か大切な思い出を持つことを決意し、その家のことを決して忘れないと誓った。

それから数日、和樹は村を離れ、都会に戻ったが、時折、夢の中に現れる祖母や猫の姿を思い返した。
彼は心の奥深くに温かい記憶を刻み、祖母が愛してやまなかったものの存在を意識し続けることとなった。
それは、決して彼の心から消えることのない想いとなったのだ。

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