夜の深い森に囲まれた小さな集落があった。
その集落の一角には、古くから伝わる伝説が人々の間で語り継がれていた。
伝説の中心には「狼」がいた。
彼は人間に姿を変えることができるが、本当の姿は誰もが恐れる獰猛な狼だった。
この狼は、心に悔いを抱える者の前に現れ、その魂を奪うと言われていた。
ある晩、若者の和也は友人たちと集まっていたが、村の噂話に興味を惹かれた。
彼はWolfの伝説について聞かされた際、内心では笑っていた。
彼は自分には関係のないものだと思い込んでいた。
友人たちは恐怖に震えながらも、和也に怖いことは信じられないと告げた。
和也は「そんなのはただの伝説だ」と言い、彼らの不安を軽視した。
だが、心のどこかで人間の一番の愚かさ—無知を理解しているかのようだった。
数日後、和也は村の外れで何かを見つけた。
それは人形のような形をした無残なものだった。
彼はそれに狂ったように魅了され、何かを思い出したかのように近づいていった。
その人形は彼が捨てた、彼の愛犬だった。
彼は母親に頼んで預かってもらうようお願いしていたが、彼女はそれを拒んだのだ。
彼は悲しみを堪えて無視し続けていた。
彼の中には、愛犬に対する悔いが渦巻いていた。
その日の夜、和也は夢を見た。
夢の中で、彼は見知らぬ森の中にいた。
冷たい風が包み込み、周囲には一つの影が潜んでいた。
影は次第に形を現し、その姿は狼だった。
狼の目は真紅に光り、彼を見つめ返していた。
和也の心臓は早鐘のように打ち鳴らされた。
彼は狼を恐れながらも、その背後にある自分自身の悔恨を感じていた。
「お前の悔いは、私の糧となる」と、狼は静かに囁いた。
その瞬間、和也の身の回りが暗闇に包まれ、彼は何も見えなくなった。
目を覚ますと、彼は自宅の床に横たわっていた。
だが、彼には違和感があった。
周囲の光景がいつもと違い、何かが変だと感じていた。
彼は、村の人々の顔を見ても、何も意味を持たないように思えた。
彼は鏡に映った自分の顔を見て初めて気づく。
そこには彼の愛犬の面影が一瞬映り、次の日には彼の記憶さえも薄れていった。
それから和也の生活は狂い始めた。
彼は村の人々と距離を置き、孤独に悩み、そして忘れられた。
彼の中には、愛犬の無念が深く根付いていた。
その苦しみを、誰とも分かち合うことができなかった。
数ヵ月後、村では再び狼の姿を目撃したとの噂が広がった。
和也もまた、森の奥深くに何かを求めて彷徨っていると噂された。
しかし、彼はもはや自分の存在が何であるかすら分からなかった。
彼の意識の中は、狼の視線で満ちていた。
彼の心に届くことはなかった愛犬の叫び。
和也はその久しい悔いから逃れられぬまま、何も求めず、ただ終わりを迎えることだけを待っていた。
ある晩、村人の一人が和也の姿を目撃した。
彼は恐れおののき、和也に向かって「お前は誰だ?」と叫んだ。
しかし、彼の口から出たのは「私が…私だ」という言葉だけだった。
村人は恐怖に逃げ去り、和也の身体はそのまま森に消えていった。
彼は今や、人々の記憶からも忘れ去られた存在だった。
無念のまま、狼に選ばれた者として、彼は悔いの終焉を迎えたのだった。