山奥の奥深く、自宅から遠く離れた場所に一軒の古びた家があった。
周囲の樹木が薄暗い影を落とし、さらに進むと静寂が支配する世界に入っていくようだった。
この家は、村の人々にとって忌まわしい場所として知られていた。
誰も近づかない、誰も住もうとはしない。
理由はただ一つ、その家のそばには狼の姿をした怨霊が住んでいるという言い伝えだった。
ある日の夕暮れ時、俊介という大学生は、友人たちと共に肝試しにこの家を訪れることを決めた。
肝試しは恐怖を求める遊びに過ぎなかったが、俊介はこの家に秘められた謎に特に興味を惹かれていた。
彼はこの不気味な場所を探索しようという気持ちが抑えられなかった。
「ねえ、この家、本当に狼の怨霊がいるのかな?」友人の達也が少し不安そうに言った。
しかし、俊介は笑って答えた。
「大げさだよ、ただの噂さ。ちょっと不気味だが、何も起こらないよ。」
日が沈み、完全に暗くなった頃、俊介たちはその家に到着した。
屋根が崩れ、窓には板が打ち付けられた古びた家は、まるで訪れる者を拒むようにそこに立っていた。
戸を押し開けると、きしむ音が響き渡り、内部には長年の埃が舞っていた。
薄暗い中で石の壁や不足の家具が見え、まるで時間が止まったかのようだった。
俊介たちは奥へ進むにつれて不気味な静けさに包まれた。
その時、突然、強い風が吹き込み、扉がバタンと閉まった。
驚いた友人たちがざわつく中、俊介は心の中の好奇心が膨れ上がるのを感じていた。
「ちょっと探検してみよう!」そう言って俊介は部屋を回ることにした。
彼は自分が特別な存在になれるかもしれないと期待していた。
家の奥深くに入っていくと、彼は不気味な声を耳にした。
「出て行け、だれかがここにいる…」
俊介は恐れを抱きながらも引き返すことなく、その声の方向へ向かって行った。
もちろん、彼の心の中には狼の存在を信じていない部分もあった。
しかし、目の前には家の奥に続く小道があり、その先に何かが待っている気がしたのだ。
小道の先には、防腐剤の匂いが漂う隔離された部屋があった。
そこには、一面に古い絵が描かれた壁があり、その中央には一匹の狼が描かれていた。
その絵からはまるで生きたような目が放たれ、俊介はその視線に捕らえられるような感覚を味わった。
その瞬間、背後から不気味な声が響いた。
「私を見つけて、出て行け…」
俊介は振り返ると、狼のような姿をした影が彼に近づいてきた。
目が合った瞬間、俊介は恐怖で動けなくなった。
狼の怨霊は彼に向かってゆっくりと伸びてきて、彼の心の奥底に直接何かを伝えようとしていた。
「私を解放して、望むのなら…」
俊介は力強くその声を振り払おうとした。
しかし、その瞬間、彼は自分の中にある隠された欲望を見つけてしまった。
忠実であろうとする自分と、好奇心から来る冒険心がぶつかり合っていた。
まるで彼の心の中に存在する二つの側面が、狼の怨霊によって具現化されているかのように感じられた。
「お前がしなくても、私がやる」と言い放ちながら、狼の姿が俊介の意識に入り込んできた。
彼は無意識のうちに狼の心に共鳴してしまった。
気がつくと、彼は自分の意志とは裏腹に、家の中から出て行けなくなってしまっていた。
友人たちが心配して呼ぶ声が聞こえる。
しかし、俊介はその声に応えることができず、狼の怨霊の中に引き寄せられていった。
時が経つにつれ、彼はあの家の過去に囚われ、いつの間にかその部屋の絵の中に閉じ込められることとなってしまった。
俊介がその家で消えた後、再びその家を訪れる者たちは、今でも彼の姿を目撃するという。
霊のように両手を伸ばし、助けを求める狼の姿が、絵の中で動き続けているのだ。
彼はもはや自分を取り戻すことはできなくなり、自らが狼に変わっていく過程の中で、ただ静かに存在しているだけだった。