東京の郊外にある、古びたマンションの一室。
そこには、大学生の田中悠二が住んでいる。
悠二は学業やアルバイトに追われ、生活は忙しかったが、彼には一つの趣味があった。
それは、心霊現象についての本を読むことだ。
特に、念に関する本には強く惹かれていた。
ある晩、悠二は友人から譲り受けた古い書籍を開き、念の力についての実例を読み進めていた。
内容は、強い念が具現化することで、周囲に影響を及ぼすというものであった。
興味を持った悠二は、念の力を試してみたくなり、周囲の友人たちに不気味な実験を提案した。
「念を送り合おうよ。お互いに強く念じて、どれだけ影響を与えられるか試してみよう」と言った。
友人たちは半分楽しみ、半分半信半疑で集まった。
最初の夜、悠二は友人の佐藤に対して「明日、必ず夢に現れてみろ」と念を送り、友人たちは円になって「田中の念を受け取れ!」と声を張り上げた。
すると、気のせいか悠二の心の中に小さな不安が芽生え始めた。
翌朝、佐藤は夢に登場した。
不気味に微笑んでいたが、すぐに目を覚ました佐藤は夢のことを忘れてしまっていた。
しかし、徐々にその実験が楽しいものだと思われるようになり、彼らは次々に友人に念を送り合うことを続けた。
しかし、数日後、悠二は異変を感じるようになった。
その日は久しぶりに友人たちが集まる予定だったが、参加予定の川島が突然参加できないと言った。
理由を尋ねると、彼は「最近、悪夢にうなされていて、心配なんだ」とつぶやいた。
悠二は思わずその言葉を胸に抱え込んだ。
その夜、悠二は夢の中で川島の姿を見た。
彼は青白い顔で、怯えた目をしている。
悠二はただ見守ることしかできなかった。
その瞬間、逆に悠二の心に強い念が押し寄せ、圧し潰されそうな感覚があった。
目が覚めた時、血の気が引いた。
次第に、彼らの間に不穏な空気が流れ始め、朝になるたび友人たちに異変が起こっていった。
夢の中で姿を現す友人たちは、次第に変わり果てた表情で息をひそめていた。
彼らは悠二の狭い部屋に寄り集まり、大きな声で「もうやめた方がいい」と叫びだした。
悠二は「でも、やめたら顕在意識が崩れちゃう!」と言ったが、心には恐怖が増し、どうすることもできなかった。
そして、ある夜、悠二は夢の中で皆が集まる場面を見た。
彼らはどことなく疲れた様子で、目を合わせない。
悠二はその中で、自身が何かを操作しているかのように感じた。
そして、その場で全員が一斉に叫んだ。
「無限の念が俺たちを崩壊させる!」
悠二は思わず目を覚まし、冷汗をかいた。
彼は部屋の明かりを点け、恐る恐る周囲を見渡した。
すると、全ての物が音を立て始め、壁が軋むような音を感じた。
それはまるで、悠二の心の中に重なり合う友人たちの念が、現実に作用しているかのようだった。
恐怖に駆られ、悠二は一人でマンションの屋上に向かった。
遠くに見える夜景は美しいが、彼はその美しさを享受することができなかった。
友人たちと自らの念によって絆を築き、そして崩れてしまったことが脳裏に焼き付いていた。
彼は強く心の中で思った。
「終わりにしたい…全てを終わりにしたい…」
すると、突然、彼の目の前にかつての友人たちの幻影が立ち上がった。
怯えた顔、絶望の表情、全てが彼に向かって手を伸ばしている。
悠二はその場から逃げ出そうとしたが、彼の体は動かなかった。
彼の心は、その念に完全に捕らえられてしまった。
最後に、悠二は大声で叫んだ。
「もうやめてくれ!」その瞬間、万華鏡のような光が彼を取り囲み、全てが崩壊した。
気がつくと、彼は自分の部屋に戻っていた。
しかし、そこにはもう友人たちの影は無かった。
昔の賑やかな日々は終わり、彼だけが残された。
マンションは静まりかえり、悠二の心だけが虚無の中で彷徨い続けていた。