「狐の呪い、過去の影」

村の外れに、古びた神社がひっそりと佇んでいた。
この神社には、昔から狐が祀られており、村人たちは「化け狐」に呪われることを恐れていた。
特に、子供たちはこの神社の近くには決して近づかないように言い聞かされていた。
そういった伝承が語り継がれる中、ある夏の日に、一人の若者がその神社に足を運ぶことになった。

その名は一郎。
彼は20歳の大学生で、普段は都会での生活に慣れきっていたが、夏の帰省中に友人から聞いた話が気になり、好奇心に駆られて神社へと向かった。
神社の境内に入ると、陰鬱な雰囲気が漂っていた。
しかし、一郎はその不気味さを感じつつも、面白半分に周囲を見回した。

その時、一郎の視線を引きつけたのは、木々の間から顔を出していた小さな石像だった。
それは、狐の姿をした石像であり、目が妙に生きているように見えた。
興味を抱いた一郎は、その石像に近づくことにした。
しかし、近づいた瞬間、彼の背筋に寒気が走った。
狐の目が彼を見つめ、まるで心の内を読み取ろうとしているかのように感じたのだ。

気持ちが悪くなり、立ち去ろうとしたその瞬間、彼の耳にささやくような声が聞こえた。
「お前の心の奥に秘めた過去を見せてあげよう。」驚く一郎とは裏腹に、彼の体はその声に引き寄せられるように動いていた。
突然、目の前が白く光り、彼はまるで異次元に引き込まれたような感覚に襲われた。

気がつくと、一郎は見知らぬ場所に立っていた。
それは、かつて彼が暮らしていた村であり、幼少期の記憶が鮮やかに蘇る場所だった。
しかし、何かが違っていた。
村は静まり返り、どこを見ても人影はなかった。
彼がかつて遊んでいた場所に行くと、懐かしい声が聞こえたような気がした。
「一郎、こっちにおいで!」それは、彼の幼馴染の優子の声だった。

一郎はまるで幻に導かれるように、声のする方へ歩みを進めた。
しかし、そこに待っていたのは優子の姿ではなく、彼女の霊だった。
笑顔で手を振りながら、一郎に近づいてくる。
しかし、彼女の周囲には何とも言えない陰が漂っていた。
「一郎、あなたはもう戻れないのよ。私たちはずっとここにいるから。」

その言葉を聞いた瞬間、一郎は恐怖に包まれた。
優子との思い出が、彼の心に焼き付いている。
かつての楽しい日々は、もう戻らないのだということを悟ったからだ。
それでも一郎は必死に引き返そうとした。
「私は絶対に帰る!ここにはいたくない!」

すると、背後から再び、狐の声が響いた。
「過去を忘れ、未来を見ろ。だが、その選択はお前自身で決めなければならない。」一郎はその言葉が示す意味を理解できなかった。
境内の狐が彼に何を求めているのか、今もなお不明だった。

そして、彼は力強く足を前に進めた。
過去を振り返らず、未来に進むために、彼は石像の場所へ戻った。
すると、突然周囲が眩い光に包まれ、彼の体は元の神社へと戻されていた。
しかし、神社内には彼の姿しかなく、かつての村の記憶は完全に消え去っていた。

今、一郎は神社の前で孤独に立ち尽くしている。
狐の石像は、彼を見つめ続け、まるで彼の心の中にある記憶を確認するかのようだった。
一郎は神社を後にしたが,胸の奥には不気味な空虚感が残っていた。
彼は決して平穏には戻れないことを悟っていた。
そして、この神社には一度足を踏み入れると、過去から逃れることはできないのだということを、彼は深い恐怖として心に刻んだ。

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