夜の街は静寂に包まれていた。
月明かりが薄く照らす中、一人の青年・翔太は、ふとした好奇心から禁断の通りを歩いていた。
この通りには「狂った印」として知られる伝説があった。
過去にここで狂った霊が出没し、何人もの人々が精神を蝕まれたという。
翔太はその話を聞いてから、ずっとこの場所に興味を持っていた。
自分が本当にその霊に出会えるのか、あるいは単なる噂に過ぎないのか、それを確かめたかったのだ。
月が高く上がり、街灯の明かりが薄暗い道を照らしている。
彼は恐れを感じつつも一歩を踏み出した。
彼は道に入ると、異様な感覚に襲われた。
周囲がしんと静まり返る中、耳元でささやくような音が聞こえた。
「来て、私を助けて…」その声はどこか懐かしさを感じさせ、翔太を惹きつけていく。
彼は幽かな声の主を探すように、さらに深く通りへと進んでいった。
そこに立っていたのは、長い黒髪を持つ女性の霊だった。
着物を着たその姿は、美しさの中にどこか狂気を孕んでいた。
彼女の目は、翔太の心の奥底を見透かすように、鋭い光を放っていた。
「あなたもここに来たのね。私の印を受け入れて」と、彼女は微笑みながら言った。
その瞬間、翔太は何かに引き寄せられるような感覚に襲われた。
彼女の指先から放たれる光が彼の額に触れ、温かい感触を残した。
だが、その瞬間、翔太の頭に痛みが走った。
彼はその場に崩れ落ち、胸の奥に不安が渦巻くのを感じた。
「だから、狂っていくの…」と彼女は言った。
翔太はその言葉に反応し、自分の中に何かが侵入してくる感覚を覚えた。
彼は恐怖に駆られながらも、彼女の存在に抗うことができなかった。
狂い始めた頭の中で、彼女の声がエコーのように響く。
「その印を背負いなさい。あなたも私の仲間なのだから。」
翔太はもがき苦しんだが、その声から逃げられることはなかった。
彼の中に渦巻く狂気は、次第に彼の意識を蝕んでいった。
彼は自分が何を感じ、何を思っているのかすら分からなくなってきた。
この印を受け入れた瞬間から、彼の心は狂の檻の中に閉じ込められてしまったのだ。
その後、翔太は自らの意思を持たないまま、この通りを彷徨う霊となってしまった。
この場所を訪れる者に寄り添い、巧妙な囁きで彼らを惑わせる。
彼はもはや自分が何者なのか、どこへ向かうのかを忘れていた。
ただ、彼女の言葉を繰り返すように、「私を助けて…私の印を受け入れて」と囁く。
こうして、狂った印を宿した翔太は、月明かりの下でたゆたう霊となり、無間の苦しみを抱え続ける。
彼の目は、かつての自分を映し出すことはなく、ただ狂気の印だけが残ったままだった。
誰かがこの通りを訪れ、彼女の元へ導かれる日を、翔太はただ静かに待ち続けている。
