「燃え上がる望みの呪い」

ある小さな村、名もなき集落があった。
村人たちは代々、自然と共存しながら穏やかな生活を送っていたが、一つだけ忌まわしい伝説が語り継がれていた。
それは、村の外れにある古い神社にまつわるものだった。
その神社には、かつて人々が「燃える望み」という儀式を行っていたという。
人々は自らの願いを紙に書き、それを神社の灯篭で燃やし、神々に届けることができると信じていた。
しかし、ある年、望みが叶うどころか、逆に村を襲う災厄を招くこととなり、その儀式は禁忌とされてしまった。

時が経ち、村はさらなる平穏な日々を重ねていたが、若者の中に神社に興味を抱く者たちがいた。
その中の一人、佐藤健は望みを叶えたいという強い気持ちを持っていた。
彼は、「燃える望み」を再び行うことで、村が繁栄を取り戻すと信じていた。
友人たちを集め、夜に神社へ向かうことを決めた。

「やっぱり、願いを燃やさなきゃダメだ!俺たちの未来のために」と健は意気込んだ。

友人たちは不安を感じていたが、健の情熱に押され、同意した。
彼らは神社までの道を歩きながら、村の伝説を思い出していた。
「あの年、確か火事が起きたんだよね」「それ以来、神社には誰も近づかなくなった」と囁き合いながらも、若者たちは意気揚々と進んだ。

夜空に浮かぶ月明かりの中、神社は静まりかえっていた。
木々が揺れ、微風が彼らの背後を通り過ぎる。
健は神社の中央で、用意したろうそくと紙を引き出した。
「さあ、みんな。思いを込めた願いを書いて、火を灯そう!」

友人たちはそれぞれ願いを紙にしたため、健が用意した灯篭に火をつけた。
彼らの周りは温かい光で包まれ、心が高揚していく。
しかし、瞬間、不気味な空気が流れ込み、村の不吉な伝説が再び甦るかのようだ。

「おい、何か変だぞ…」と友人の中の一人が言った。
その言葉と共に、周囲の木々がざわめき始めた。
炎が赤く燃える灯篭から、濃い煙が立ち上り、次第に森全体が異様な雰囲気に包まれていく。

「早くここを離れよう!」と恐怖に駆られ、友人たちは慌てて逃げ出した。
しかし、健だけは、燃える炎の先にある光景に目を奪われていた。
炎の中に見える幻影、過去の住人たちの顔、燃え尽きる願いの残骸が彼の目に映った。
その瞬間、彼の心に芽生えたのは、強い望みだった。

「俺の願いは!まだ消えてない!」と健は叫びながら灯篭の前に立ち尽くしたが、他の友人たちは彼を引きずって後ろへ逃げていった。
神社の奥から、燃え盛る炎は高く立ち昇り、彼らの逃げ道を奪った。

「健、行くぞ!」と誰かが叫ぶが、彼の耳には届かない。
彼は炎の中で、自らの願いが燃え盛っているのを見つめ続け、それを手放すことができなかった。
心の中で望むことが、他の誰かの運命を引き寄せるかもしれない。
その恐怖が、彼の心を囚えていた。

やがて、炎はすべてを飲み込み、村全体に燃え移るような気配がした。
彼の友人たちは村へ逃げ込み、火の中で健の叫びが響き渡る。
伝説は再び形となり、過去の影が再生していく。

願いを燃やすことが、これほどの災厄をもたらすとは知らなかった。
健は燻る灰の中で、もう戻れないことを理解した。
燃え上がる炎の先に、彼の望みは消えてしまった。

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