「燃える木の願い」

ある寒い冬の夜、東京の片隅にある小さな町・望。
人々は忙しく生活しているが、その町には秘密があった。
古びた神社の奥に、誰も近づこうとしない「燃える木」が存在するのだ。
その木は、何十年も前に神社の神主が火をつけ、自らの命を絶ったという噂がある。
そのため、それ以来人々は恐れを抱き、近づくことを避けていた。

そんなある日、看護師の佐藤美恵は、親しい友人である石井健と共に、待っている医療志望の学生たちと心霊スポット巡りを計画した。
彼らは手軽なオカルトと笑いを求め、好奇心から神社を訪れることになった。

夜が訪れると、冷たい風が吹き抜ける中、健と美恵は神社の入り口に立っていた。
周囲は静まり返っており、月明かりが道を照らしていた。
美恵は不安を感じながらも、勇気を振り絞って言った。
「じゃあ、行こうか。」

二人は神社を進むと、「燃える木」にたどり着いた。
黒く焦げた幹が立ちはだかり、暗闇の中で異様な存在感を放っていた。
健はその木を見上げながら言った。
「これが噂の燃える木か…本当に恐ろしいな。」

「ひょっとしたら、誰かの霊が怨んでいるのかもしれないね。」美恵が言うと、健は冗談めかして首を振った。
「そんなことあるわけないだろ。さあ、写真を撮ろう!」

美恵はそう言われると、スマートフォンを取り出して木の前に立ち、シャッターを切った。
しかし、その瞬間、突然木の周囲が赤い光に包まれた。
二人は驚いて後ずさり、燃える木から炎が立ち上るのを見つめた。

「なんだこれは…?」美恵は目を逸らせなくなっていた。
炎は不自然にまるで生きているかのように、何かを求めているかのように揺らいでいた。
その時、木の中から声が聞こえてきた。
「誰……が……来た?」

驚愕する健と美恵。
木の焦げた部分から、不気味な形をした何かが現れ、二人に向かって手を伸ばしてきた。
その瞬間、健は恐怖に包まれ、叫んだ。
「逃げよう!」

二人は必死に神社を後にしたが、燃える木がその背後で叫ぶ声が聞こえた。
「私を解放して…。私を助けて…。」

町が静寂に包まれた中、美恵は何かが心に引っかかるのを感じていた。
健は急いで息を整えながら言った。
「あ、あの声…何だったんだ?気味が悪いな。」

美恵は心の中に想いが渦を巻いていた。
「誰かが助けを求めていたのかもしれない…でも、どうすればいいの?」

次の日、美恵は町の図書館へ向かった。
彼女は「燃える木」にまつわる伝説を調べ始めた。
古びた本の中に、神社の神主が「ここに燃える木を植えたのは、願いが叶うためだった」という記述を見つけた。
しかし、その木が燃え続ける理由は、彼の命を預けたものであると書かれていたのだ。

「燃える木は、誰かの願いを叶えようとしている。でも、彼はその火を消して欲しいと思っているのかも…」美恵は思った。
彼女はその夜、自らの決意を胸に抱え、再び神社に足を運ぶことに決めた。

月明かりの下で、燃える木の前に立つ美恵。
クラクションが鳴り響く中、彼女は勇気を出して手を合わせた。
「どうか、あなたの思いを聞かせてください。私があなたを助けます。」

その瞬間、木の炎が一瞬収まり、静寂が訪れた。
美恵はこれまでの恐怖が薄れ、自身が何をすべきかを悟った。
すると、木の中から再び声が響き渡った。
「助けて、私を解放して…」

その声に導かれるように、美恵は木に近づき、手を伸ばした。
次の瞬間、温かい光が彼女を包み込み、木の炎が収束していった。
美恵はその光の中で安心感を覚え、思わず涙が流れた。

「あなたを放します。安心して。」彼女の言葉に応えるかのように、木は勢いを増しながら燃え続けた。
やがて、木の姿は消え去り、静寂が再び訪れた。

美恵はその場を離れると、軽くなった心で町に帰っていった。
今、新たな願いと希望の光を胸に秘め、彼女は町を見渡した。
燃える木は消えたが、彼女の心に新たな力が宿っていたのだった。

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