「燃える教室の影」

静かな夜、三年生の佐藤絵里は、学校でのグループプロジェクトの準備をするため、廊下を歩いていた。
廊下はほとんど真っ暗で、教室から漏れる淡い光が彼女を照らしている。
彼女は、親友の竹内花と一緒に、過去の校内伝説を調べていた。
ある古い話によれば、学校には「燃える教室」と呼ばれる場所が存在し、そこで不気味な現象が起きると言われていた。

その教室は廃校となったこともあり、誰も近づこうとはしなかった。
しかし、絵里と花はその伝説に興味を持ち、授業が終わった後に夜の学校へ忍び込むことにした。
彼女たちは恐れを感じながらも、好奇心が勝り、廃教室に足を踏み入れる。

教室のドアを開けると、重たい空気が彼女たちを包んだ。
中は埃だらけで、机や椅子が乱雑に置かれている。
だが、何よりも異様なのは、部屋の一角に存在する燃え上がるような赤い光だった。
火が燃えているわけではなく、その光はどこか不気味で、実体のないように見える。
絵里はその光に引き寄せられるように近づいていった。

花は不安そうに後ろで立っていた。
「絵里、やめた方がいいよ…」と声をかけるが、絵里はそのまま光の源を見つめ続けた。
すると、その中に何かしらの影が映り込み始めた。
もやがかったようなその影は、徐々に人の形を成していく。

「あなたたちは、ここに何をしに来たの?」影が囁くような声で問いかけた。
絵里は怖さに震えながらも、「私たちは、この学校の伝説について調べているの」と答えた。

「伝説のことを知りたいのか?なら、私のことを受け入れなさい」と、不気味な影は続けた。
絵里はその言葉に心を掴まれ、気がつけば彼女は無防備にその影に向かって手を伸ばしていた。

その瞬間、火のような熱が全身を包み込み、彼女は意識を失った。
意識が戻ったとき、彼女は見知らぬ世界にいた。
永遠とも思える時間が流れ、目の前には無限に広がる暗闇が広がっている。
彼女は薄っすらと燃える教室が遥か彼方に見えるのを感じた。

一方、花は驚きと恐怖で言葉を失った。
彼女の前には、絵里が消えた、あの異様な光と影が広がっていた。
もはや絵里の姿はどこにも見えず、ただ、その燃えるような光が冷たく彼女を見つめている。
逃げ出すこともできず、花は取り残された。
彼女は心の底から叫んだ。
「助けて、絵里!」と。

しかし、返ってくるのは無音だけだった。
絵里がいなくなった空間に彼女一人では耐えることができず、怖さが胸を締め付ける。
やがて、花もまた教室に近づくことにした。
彼女は、絵里が戻るのを待つため、もう一度あの場所に行かなければならないと思ったのだ。

教室に入ると、燃える光がふたたび彼女を迎え入れた。
花は決心し、絵里を見つけるために、その光の中に一歩足を踏み入れた。
何かに導かれるように、彼女の意識が曖昧になり、影の中に引き込まれていった。

時が経ち、村人たちは、燃える教室の噂を耳にすることはあっても、誰もその場所へ足を踏み入れようとはしなかった。
そこに何があるのかを知るものはなく、伝説はまた一つ、新たに創られた。
絵里と花は今、あの光の中で永遠の時間を見つめながら、新しい影の一部として残されていた。
既知の世界から隔てられた暗闇の中で、彼女たちの声はただ静かに囁かれ続けるのだった。

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