「無限の待ち人」

ある夏の終わり、田村雅樹は友人とともに、北海道の山間部をドライブしていた。
彼らは、休日の軽い気持ちでドライブを楽しむつもりだったが、突然の雨に見舞われ、道に迷ってしまった。
目の前には、どこまでも続く一本道が広がっていた。
その道は薄暗く、周囲にはまばらに並ぶ木々しか見えなかった。

「この道、どこに繋がってるんだろう?」友人の佐藤が不安そうに呟く。
雅樹も同じく心の中に不安を抱えていた。
地元の人々の間でささやかれる噂、そこには「無限に続く道」と呼ばれる場所があるという。
引き返そうとするも、車は進むにつれてどこにも出口の兆しを見せなかった。

「ひょっとして、本当にあの噂の道に迷い込んじゃったのか?」雅樹は心臓が高鳴るのを感じた。
その時、急に外が静まり返った。
雨音も風の音も消え、周囲は完全な静寂に包まれた。
「おい、雅樹、聞こえるか?」佐藤が小声で言った。
二人の不安は高まっていくばかりだった。

すると、前方に人影が見えた。
それは薄い白い服をまとった女性だった。
彼女は微笑みながら、道の端に立っていた。
「助けを求めているのか?」雅樹は思わず運転席から身を乗り出して尋ねた。
すると、その女性は指を差し、無言で何かを訴えているようだった。
彼女が指し示す先には、道の両側に立つ木々の間から続く小道が見えた。

「こっちに行けばいいのか?」雅樹は不安な気持ちを抱えながらも、女性の指示に従おうと決めた。
しかし、佐藤は強く反対した。
「だめだ、あんな怪しい人についていくなんて!」雅樹の心の中で葛藤が始まる。
結局、彼は運転席に戻り、車を進めることにした。

いつの間にか、彼は運転していることを忘れ、ただその女性の姿を追うように、心が引き寄せられるように感じていた。
道がどこに続いているのかはわからなかったが、背後には不安な空気が漂っていた。

突然、車の前方に何かが立ちはだかった。
それは、あの女性の姿だった。
「あ、また会ったか」と無意識に思った雅樹。
しかし、次の瞬間、女性の顔は変わり、無機質な表情に変わった。
目も見えないかのように顔を近づけてくる。
雅樹は恐怖に駆られて急ブレーキを踏んだ。
その瞬間、女性は消え、再び静寂が車内を包んだ。

「やばい、早く逃げよう!」佐藤が焦った声で叫んだ。
雅樹は車を急いでバックさせるが、なぜか後ろは暗闇に包まれ、進むことができなかった。
「やだ、ここから出られない」と頭の中が混乱していく。

すると、雅樹はふと気がついた。
道の先には、多くの人々が立っていた。
彼らは、何かを待っているかのようにじっとこちらを見つめていた。
「あれは……?」雅樹の心に恐怖が広がっていく。
「誰もこの道を出られないってことか?」

体が硬直し、自分の無力さを感じると、あの女性の声が頭の中に響いた。
「あなたたちは、私を見つけられない。ここで、永遠に待ち続ける運命なのだから。」

雅樹はその時、無限に続く道の意味を理解した。
彼は失われた旅人の一人として、ただ静かにこの場所に留まることになってしまったのだ。
周りにいた人々も、少しずつ顔を見せ始める。
彼らは、自分たちが何年もここで待ち続けていたことを知っていた。

いつのまにか、雅樹の心は、彼らと一緒にその道の一部になっていた。
戻ることはできず、ただ静かに過去の記憶を持ったまま、誰かが見つけてくれることを願うしかなかった。
そして、道は続き、誰もそこを通ることはなかった。

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