トンネルの入口には、古くからの伝説があった。
そのトンネルを通る者は、必ず一つの「条」を守らなければならない。
すなわち、無言で通過すること。
この伝説を守らなかった者には、恐ろしい現象が襲いかかると噂されていた。
ある夏の夜、学生の存は友人と共に肝試しに訪れた。
このトンネルの話を聞いた存は、興味をそそられた。
仲間たちが騒いでいる中、彼女はひとり静かにトンネルの奥を見つめた。
だが、彼女の心の中には好奇心が渦巻いていた。
「本当に何かがいるのか?」不安さえ感じないその好奇心は、彼女をトンネルの中へと引き寄せた。
「無言で通らないと、本当に何かが起きるのかな?」彼女の心の中に疑念が湧いていた。
仲間たちが彼女を呼ぶ声を耳にし、彼女は少しだけ躊躇ったが、振り返ることなくトンネルの中へと進んでいった。
周囲の静寂は、彼女の気持ちをさらに高揚させた。
トンネルの中はひんやりとした空気に包まれ、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。
彼女の足音だけが響き、その音さえも不気味に感じられた。
すると、突然、背後から何かが彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「存……」
その声は明らかに彼女の名前だった。
しかし、友人たちは外で楽しんでいるはずだ。
驚きながらも、存はその声に従って振り返った。
薄暗いトンネルの奥に、ぼんやりと人影が見えた。
「あなた、誰?」存は声を震わせながら尋ねた。
影は一瞬、にっこりと笑った。
そして次の瞬間、影は彼女に向かって手を差し出した。
彼女は恐れを感じながらも、その影に近づいていった。
影の表情はどこか切なく、彼女に何かを訴えかけているように見えた。
「助けてほしい……」と、影は囁くように言った。
存はその言葉に驚愕した。
彼女は誰かを助けることができるのだろうか?影は再び手を差し出し、存はその手を取った瞬間、全てが変わった。
彼女は異次元のような場所に引き込まれた。
周囲には無数の人々が彷徨っており、皆が無表情であった。
彼女は戸惑いながらも、影に導かれるまま進んでいった。
次第に、この人々の中に「存」という名前を持つ者たちがいることがわかった。
彼女は、彼らが自分にはない過去を語る姿を見て、次第に悲しみが深くなっていくのを感じた。
特に、一人の女性が彼女に語りかけてきた。
彼女はかつて、誤解から家族を失い、無言で自らの運命を受け入れた者だった。
その女性の瞳には、失ったものへの後悔が浮かんでいた。
「条を破ってはいけない。過去と和解しなければならない」とその女性は言った。
存は、自分がここに来た理由を理解した。
この場所は、過去に苦しんだ者たちが集う空間であり、彼女はその一部だったのだ。
存は、彼女の言葉を思い出し、無言で進むことが果たして正しかったのかと思い始めた。
小さかった頃の思い出、辛かった出来事、そして心の奥に潜む感情たちが彼女に問いかけていた。
存はその瞬間、自らの過去と向き合う決意を固めた。
逆に彼女が「無言」を選んでしまったことで、他のことを見逃していたのかもしれない。
周囲の人々と手を繋ぎ、過去の痛みを共に背負うことで、彼女は何かを学んだ。
彼女は静かにその影に一言告げた。
「あなたたちと一緒に、歩いていく。」
やがて、薄暗いトンネルの奥が光り始め、存は目を覚ました。
彼女は無言で通ることができたが、同時に過去の心の傷を受け入れ、新たな誓いを立てることができた。
トンネルから出た彼女は、再び仲間たちの元へと戻り、「間違いなく、私は変わった」と思った。
同時にその時、耳元に微かに残った影の囁きが、これからの道筋を示しているかのように感じた。