「無数の視線に引き寄せられて」

マは、静かな山間の村に住む普通の青年だった。
彼は生まれ育った村をとても愛しており、特に故郷の神社に向かう道を毎日のように歩いていた。
道を歩くたびに、思い出の数々が浮かび上がり、自然の美しさに心を和ませていた。
しかし、最近、その美しい風景に何か不穏な気配が漂い始めていた。

ある晩、友人たちと山道を歩いていると、マは遠くの木々の間に小さな明かりを見つけた。
マは好奇心を抑えきれず、友人に「ちょっと見に行こうよ」と提案した。
友人たちは躊躇したが、彼の熱意に押されてついて行くことにした。
だた、不安な心がどこかに存在していた。

その先に待っていたのは、古びた小屋だった。
扉は少し開いており、不気味な静寂が漂っていた。
中に入ると、崩れかけた家具や埃が積もった床が目に入った。
マは少し怖かったが、好奇心が勝ってしまい、小屋の奥へと進んでいった。
友人たちは彼に続いて中に入ったが、彼らの顔は不安げに揺れていた。

「あれ、なんか変だな」と、一人の友人が言った。
マはその言葉に信じがたさを感じたが、振り返らずに小屋の奥へ進んだ。
すると、突如として部屋の中に寒気が漂い始め、空気が重くなった。
背筋に冷たい汗が流れた。
マは思わず立ち止まり、振り返った。

その瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、壁に描かれた無数の目だった。
それはまるで彼を見つめつづける生物たちの視線のように感じられ、彼の心に恐怖が押し寄せた。
彼は振り返り、友人たちに「戻ろう」と叫んだが、声は震えていた。
彼らの表情も緊張していた。

一人の友人が「あの目、何かおかしいよ」と言い、その言葉に皆が同意した。
小屋の異様な雰囲気に、誰もが後退りつつあった。
だが、マはその目から逃げることができず、心が重くなった。
思考が乱され、無意識に一歩踏み出した。

「マ、戻れ!」友人が叫んだが、その声は耳に入らなかった。
彼の視線は壁の目に釘付けになり、奇妙な感覚が心を支配していく。
不安が広がる中、目が彼に何かを訴えるように動き始めた。
それは彼を受け入れるかのように感じられ、彼の心を捉えて離さない。

気を失うように、マは壁に手を伸ばした。
その瞬間、中から何かが抉り出すように彼を引き寄せた。
暗闇が彼を包み込み、瞬時に小屋の中は静寂に戻った。
マの友人たちは恐怖で凍りつき、戻ることもできなくなった。

時間が経つと、村の人々が小屋の異常に気づき、誰かが行方を探そうとした。
しかし、マはいなくなってしまった。
彼の友人たちは恐怖に震えながら、小屋のことを村の神社の長老に伝えた。

長老は何かを知っている様子で、神社の祭壇に向かい、祈りの声を上げた。
「誰かが、目の前の選択を信じられず、影に取り込まれてしまった…」その言葉には、深い悲しみが含まれていた。

村の人々は、何週間も探し続けたが、マの姿は二度と見つからなかった。
そして、その小屋には、あの目たちがひたすら待ち続けることになる。
彼を引き込んだ闇の中で、彼の信じた力はどこにも見つからず、ただ彼を魅了する無限の視線だけが残り続けるのだった。

村では、マの名を語る者はいなくなり、あの小屋の噂は禁忌となった。
しかし、時折、村の人々は山道を歩いていると、どこかで彼の名を呼ぶ声を耳にするような気配を感じることがあった。
それは、目の前の現実と向き合うことがなければ、いつまでも消えない影に取り込まれてしまうのではないかという、警告のようにも思えた。

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