「無忘の里に響く哀しみ」

遥か遠くの山村、彼の地は「無忘の里」と呼ばれていた。
この村には、決して忘れてはいけない過去があった。
村の外れに聳える古い神社、その境内には「還りの月」と呼ばれる神聖な月が存在し、村人たちはその月の光が照らすときにだけ、忌まわしい記憶を呼び起こされるという言い伝えを信じていた。

ある日、真司という男が村を訪れた。
彼は東京に住む若者で、最近亡くなった祖母の故郷であるこの村につい心惹かれ、思い付きで足を運んだのだ。
真司は祖母のことをあまり知らず、ただ静かな天然の美しさを求めてこの村に来たが、そこには長い間忘れられていた悲しみが眠っていた。

村に着いた真司は、宿を取るために一軒の古い民宿に立ち寄った。
そこには、静かな眼差しを持つ老女がひとり、真司を迎え入れた。
老女は真司に、無忘の里の伝説を語り始めた。
「この村では、亡くなった愛する人との再会を夢見ることができるの。ただし、その夢を抱いている間に、彼らの記憶が呼び起こされることがある」と。

真司は興味を持ち、その夜、夢の中で祖母に再会することを願った。
眠りにつくと、彼は魔法のように甘美な夢の中に入り込んでいった。
夢の中で、彼は若い姿の祖母に出会った。
優しさに満ちた彼女は、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべていた。
彼は祖母と楽しく会話を交わし、心の奥底にしまい込んでいた思い出が、次第に鮮明に蘇ってくるのを感じた。

しかし、その夢が続くにつれて、真司はかすかに違和感を覚えるようになった。
夢の世界の中で、徐々に数人の人々が彼らの周りを取り囲むようになった。
彼の夢に現れたのは、祖母の周りで彼女を見守るように漂う人々だった。
彼らの顔はうっすらとぼやけていて、まるで何かに取り憑かれたかのような恨めしい視線を向けていた。
真司の心に不安が広がり始めた。

夢の中での笑い声が次第に消え、重苦しい静寂が広がる。
それは、忘れ去られた悲しみと喪失の感情が押し寄せる瞬間だった。
真司は胸が苦しくなるほどの感情を抱え、祖母に向かって叫び続けた。
「どうしてこんなに苦しいんだ!皆は一体どうしたんだ!」祖母は彼を見つめ、「彼らは私を待っているの。私が彼らを忘れてしまったから、ここにいるのよ」と語りかけた。

目を覚ました真司は、冷や汗をかいていた。
夢の中の『待つ人々』の顔が頭から離れず、彼は夜明けを迎えるまで眠ることができなかった。
その日の午後、彼は再び神社に足を運び、村の歴史を探り始めた。
地元の人々から聞いた話では、村人たちは愛する人を喪った後、その存在が生き続けるように、記憶を重ねて生きているとのことだった。
亡くなった人々の思いが、今も無忘の里に息づいているということを知った。

その夜も真司は夢の中で祖母に会うことを望んだ。
すると、再び彼女と対話をし、共に笑い合う時間が続いた。
しかし、今度は夢の中で彼女にしっかりと覚えていてほしいと訴えた。
「どんな時でも、私を忘れないでください」と。

数日後、真司は一口のコーヒーを飲んでいると、夢の中での出来事が彼に急に思い出された。
祖母が言ったこと、村人たちの熱い視線、そして彼らの存在を忘れていることが、真司の胸を締めつけた。
全ての喪失感を抱えたまま、真司は村を離れる決意をしなければならなかった。

最後に、彼は神社に戻り、全ての人々に心からの別れを告げた。
「あなたたちの思い出、決して忘れません。」そして、村を去ると、彼は自分の中の歴史の一部分を持ち帰る決意をした。
いつまでも心に留める、その温もりを抱いて。

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