地元の小さな村には、昔から伝わる不思議な話があった。
ある日、村の端にある古い神社に、大学生の田中と友人の佐藤、村に住む少女の美咲が集まった。
彼らは恐れを感じながらも、肝試しをすることに決めた。
神社の裏には「の」という名の小道が海へ続いており、その先には誰も入ったことのない「無」に取り残された場所が存在していた。
神社に着くと、夜の闇が深く、月明かりが彼らの顔を照らしていた。
田中は興奮した様子で、「この小道を進むと、何か面白いことがあるかも」と言った。
佐藤は躊躇そちらを見て、「本当に行くべきなのか?なんかおかしい気がする」と語りかけたが、美咲は一歩前に進み、「行ってみようよ!」と笑顔で二人を誘った。
小道を進むにつれ、周囲の静けさが彼らの心に不安をもたらしていた。
薄暗い木々の間から、何かの気配を感じる。
すると、突然、冷たい風が吹き抜け、田中は「おい、聞こえるか?」と耳を澄ませた。
彼らの背後から、かすかな声が聞こえる。
それは「る、る」という女の子の不安げな声だった。
「これはどうしたらいいんだ?」佐藤が冷や汗をかき始め、一瞬目を合わせる。
美咲は怖がるのではなく、逆にその声に引き寄せられるように歩みを進めた。
「助けてあげたい…」そう思ったからだ。
しばらく歩き続けると、道は薄暗く、まるでどこか異次元に繋がっているかのようだった。
目の前には小さな池が現れる。
池の水面は波一つ立たず、鏡のように静かだった。
しかし、その水面に映る自分たちの姿はどこか異様だった。
何かが意識に働きかけてくるような感覚が、田中の頭の中を過った。
次の瞬間、彼らはその水面から顔を引いて、その場から離れようとした。
だが、美咲は池の前で立ち尽くしていた。
「何かいる、感じる…」美咲の声がひびくと、再び「る、る」とさっきの声が響き渡った。
それは恐怖で彼女の心に刻まれ、目が離せなかった。
田中と佐藤は焦りを感じ、彼女を引き戻そうとした。
「美咲、もう行こうよ!」
その時、美咲の目の前に、ぼんやりとした少女の影が現れた。
その少女は、まるで「無」の存在で、虚ろな表情で美咲を見つめている。
美咲はその瞬間、理解した。
「彼女は助けを求めている。私だ!」そう感じ、その少女に心を寄せた。
「大丈夫、私はあなたを助けるよ」と美咲は言ったが、少女はただ虚無の中に消えていった。
「る、助けて…」その声が美咲の耳から離れない。
「理を覆す何かがここに存在している、それを解き明かさなければ」と思った。
田中が無理に美咲を引き離そうとしたが、彼女は抵抗した。
「駄目!彼女を見つけるんだ」と叫び、再び池に目を向けた。
池の水面が少しずつ揺らぎ、再び少女の姿が映し出された。
「私を忘れないで…」その声は彼女の心を揺さぶる温もりを秘めていた。
美咲は心の奥で何かが変わり始めた瞬間を感じ取った。
時は流れ、田中と佐藤は無地に戻り、逃げるようにその場を離れた。
しかし美咲はそのまま池の前に立ち続けた。
その時、彼女は「理を知る者であれ」との導きを受けた。
しかし周囲の静けさに包まれ、無に影響を受けた少女の思いが心の中で渦巻く。
美咲は、一緒に戻ってくるべきだったという強い後悔を抱えつつも、自らが目的を果たすことを誓った。
池の水面には今でも、彼女の決意と共に少女の姿がわずかに映っていた。
「必ず戻ってくるから…」と呟きながら、彼女はむしろその小道の奥へと進み続けるのだった。