原の静かな村には、かつて数百年前に起きた悲劇の物語が伝わっていた。
その村は、周囲を深い木々に囲まれており、昼間でも薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出していたが、村人たちはその場所を特別な意味を持つ聖地として大切にしていた。
特に、原の中心には広場があり、その周りには古びた神社が静かに佇んでいた。
村の若者たちは、夜になるとその広場に集まって話をするのが習慣だった。
一人の若者、田村は友人たちと共に、鬼や幽霊の話をして過ごしていた。
その日も仲間と共に集まり、いつも通りの話題に花が咲いていたが、ふと口を開いたのは、静かに話を聞いていた佐藤だった。
「お前たち、原の神社にまつわる「無」の話、知っているか?」
田村は首を傾げ、他の仲間たちも興味を示した。
「無って、何だ?」
佐藤は少し神妙な面持ちで言った。
「『無』は、かつてこの地に住んでいた者たちの怨念だ。彼らは、強い願いを持ちながらも、それが叶えられなかったためにこの世を去り、その想いが『無』となって残ったと言われている。神社には、今もその思いが宿っているらしい。」
仲間たちは、最初は興味本位で話を聞いていたが、徐々に不安が広がった。
田村は、自分たちが何かを感じ取っているような気がしていた。
夜が更けていくにつれ、周囲の木々の音が奇妙に揺れ動き、暗闇の中に何かが潜んでいるような気配を感じる。
「皆、本当にこのままここにいるのか?」田村が言うと、一人がうなずいた。
「でも、試してみよう。神社に行ってみようぜ。」
仲間たちは不安を抱えながらも、神社へ向かうことにした。
広場を抜け、暗い森を進むと、神社の姿が見えてきた。
木々が深く絡み合い、神社の境内は、まるで別の世界にいるかのようだった。
雰囲気は重く、胸が締め付けられるような感覚をみんなが感じていた。
田村たちは、神社の中に入ると、蝋燭の明かりで薄暗い空間を照らしながら、それぞれが自分の願い事を唱えることにした。
その瞬間、周囲が急に静まり返り、何かが彼らを見つめる気配を感じた。
「怖い、帰ろう。」と仲間の一人が言ったが、もう一人の中村は、強い願いを持っていた。
「願い事が叶うまで、私たちは帰らない。」彼は毅然としていた。
しかし、その時、神社の祭壇のほうから、不気味な囁き声が聞こえてきた。
「帰れ、無の者よ。」薄暗い中、目の前に立つ影が見えた。
黒い衣をまとった無数の人影が浮かんでおり、彼らの存在がまるで霧のように漂っていた。
田村は恐怖に駆られながらも、「本当に無の者たちだ!」と叫んだ。
友人たちは状況に混乱し、一斉に神社から逃げ出した。
だが、それを追うかのように影は迫り、田村の足元に絡みつく。
「私たちには願いを捧げる資格があるのか?」と echo(エコー)する。
外に出たとき、仲間たちは無我夢中で走った。
森を駆け抜け、何とか広場に戻ると、田村は振り返った。
神社の方向からは、依然として無数の声が響いている。
「無の者に戻るか、もしくはそれを受け入れるか。選びなさい。」
田村は友人たちと共に立ち尽くし、恐怖と願いの間で揺れ動いた。
その瞬間、彼は自分の心からの願望に気付いた。
「私たちは、無の者に戻ることを捨て、心の底から生きることを選ぶ!」友人たちも同様の思いを抱き、全員が一斉に叫んだ。
瞬間、恐怖が消え、静寂が広がった。
木々の音も静まり、ただ心の中に満ちていた静けさが残った。
夜の闇に包まれた原の村には、再び穏やかな時間が戻ってきた。
彼らは、無の者たちが求めていたのは愛と信頼であることを学び、以後の人生を心から大切にして生きることを誓った。
それ以来、原の村では「無の者」に関する話は語られなくなったが、彼らの心の中で、深い教訓はしっかりと根付いていた。