「炎の呪いと燃えた部屋」

静かな山間に佇むその宿は、訪れる者に不可解な印象を与える場所だった。
外観は古びていたが、どこか神秘的な雰囲気を醸し出しており、その魅力に引かれた旅人たちは足を踏み入れる。
だが、宿の奥には禁忌とされる部屋が存在することを、誰もが知らなかった。

その部屋は「燃えた部屋」と呼ばれ、宿の若女将・希によって厳重に閉ざされていた。
彼女は家族代々、その部屋の伝説を受け継いでいた。
かつて、その部屋で行われた呪いの儀式は、恐ろしい結果を招いたのだ。
いまだに怨霊がその場に留まり、宿を訪れる者たちを脅かしていた。
希は、そのことを知った上で宿を運営していたが、心に常に恐怖を抱えていた。

ある夜、一組の旅行者が宿に宿泊することになった。
彼らは好奇心旺盛な若者たちで、宿の噂を聞きつけ、その「燃えた部屋」を探ることを決意した。
希は彼らにその部屋の存在を語らなかったが、心の奥底では彼らがその部屋に近づくのをひどく恐れていた。

彼らの中の一人、直斗は特に興味を持っていた。
皆が寝静まった頃、彼は仲間たちを連れ、密かにその部屋に忍び込むことに決めた。
ドアがきしむ音を立てながら、彼らは重たい扉を開いた。
灯りが不足し、薄暗い部屋の中には、古い家具と無数の灰が散乱していた。
そして、部屋の壁に描かれた奇妙な模様が、彼らの視線を引きつけた。

「これが呪いの儀式の痕跡か?」直斗は興奮しながら呟いた。
仲間たちは緊張しつつも、その不気味な空間に悪戯心をそそられ、次々と小さな物を持ち帰ることにした。
しかし、その瞬間、何かが変わり始めた。
床に散らばっていた灰が風もないのにふわりと舞い上がり、彼らの周囲を包み込んだ。

恐怖に駆られた彼らは逃げ出そうとしたが、扉は突然、内側から無情に閉じられた。
直斗が焦って扉を叩くと、彼の背後で低い声が響き始めた。
「ここから逃げることはできない。お前たちの心の中に、私の呪いが潜んでいるのだ…」

仲間たちの恐怖は募り、次第に誰もが絶望的な表情になる。
希の声が思い出される。
「この部屋に入ってはいけない!」だが、もう遅かった。
燃え盛る炎が無数の影となって形を変え、彼らの周囲に迫っていく。
直斗はその時、何かを思い出した。
希の家族が代々伝えてきた呪いの話。

燃えた部屋は、かつて村人たちの恨みを買っていた者たちによって祈りがなされた場所だ。
その者たちは、宿に火をつけられ、復讐のために呪われたまま、燃え続ける運命を背負わされていたのだ。
影たちの中に、彼らの怨念が宿っていることを理解した直斗は、絶望の中にも一筋の希望を見出す。

「この呪いを解くには、贖罪をしなければならない!」彼は仲間たちに声を掛け、燃え立つ影との間に立ち向かう勇気を奮い起こした。
彼らはその部屋に捨てられた灰を用い、燃えた者たちを鎮めるための儀式を始めることにした。
希の言葉を思い出し、彼らに課せられた罪を認め、過去の出来事に心から謝罪した。

影たちの怒りが和らぐ中、無数の手が彼らに向かって伸びてくる。
「助けて…私たちを忘れないで…」その言葉が耳に残る。
彼らは必死に穏やかさを保ち、呪いが解けることを願った。

次第に、部屋の空気が変わり始めた。
燃え立つものは静まり、壁に描かれた模様も徐々に色を失っていく。
気がつくと、扉が開いた瞬間、彼らはその場から飛び出すように逃げた。
周囲の静寂が戻り、無事に外へ出てくることができたのだ。

恐怖を抱えたまま、宿から離れる直斗たちの心には強い絆が生まれ、その後も彼らは再びあの宿に戻ることはなかった。
しかし、二度と忘れないと心に誓ったその夜の出来事は、彼らの中で永遠に生き続けることになるのだった。

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