「炎に消えた記憶」

夜の闇が静かに村を包み込む中、炎が夜空を照らしていた。
村の外れには、不気味な焚き火が燃えている。
そこには、村の人々が集まり、火の周りでささやかな宴を開いていた。
しかし、この火には一つの不吉な秘密があった。

この焚き火は、昔から村の人々が「呪いの火」と呼んできた。
かつて、村には強力な呪術師が住んでいた。
しかし、彼はその力を自らの欲望に使い、村の人々に多大な迷惑をかけていた。
呪術師の悪行に耐えかねた村人たちは、彼を火あぶりにし、その遺灰をこの地に埋めた。
その日から、村は静まり返り、呪術師の亡霊が焚き火の灰の中に潜んでいるという噂が広がった。

人々は、この焚き火の周りで踊り、笑い声を交わしていたが、心のどこかで恐れを抱いていた。
その火が燃え続ける限り、呪術師の呪いが生き続けるのだと言われていた。
村人たちは、そのことを知りつつも、集まりを楽しむために火の明かりに目を奪われていた。

焚き火を囲む少女の名前はの。
彼女は、祖母からこの話を聞かされて育った。
彼女の祖母は、呪いを解くためには、焚き火に自らの記憶を捧げる必要があると語った。
のは、その話を真剣に受け止め、「本当に呪いを解くには、何かを捧げなければならないのではないか」と思った。

祭りの夜、のは仲間たちと共に焚き火の周りで踊り続けた。
彼女の心には、かつての家族や友人との思い出が浮かんでいた。
楽しかった日々、笑顔、温かさ——それらは次第に彼女の中で色あせていった。

突然、焚き火がパチパチと音を立て、炎が大きくなる。
のは、その光景を見て、なんだか胸が締め付けられるような気持ちになった。
そして彼女は、自分の中で何かが決意する瞬間を感じた。
「私は、呪いを解き放つために自らの記憶を捧げよう」と。

彼女は焚き火の前に立ち、その炎を見つめた。
周囲の音が消え、彼女の心の中には静寂が広がっていく。
彼女は、過去の思い出を一つ一つ思い出し、それを炎に投げ入れるような感覚を味わった。
「君たちとの思い出は、もう必要ない。私が呪いを解くことで、みんなが幸せになれるのなら。」

焚き火の炎は、彼女の言葉に応えるかのように、さらに大きく跳ね上がる。
周りの村人たちは驚きと不安の表情で彼女を見つめていた。
その瞬間、のの心の奥に眠っていた記憶が次々と浮かび上がり、彼女の体を貫いていく。
かつての傷、悲しみ、喜び——すべてが焚き火に吸い込まれていく感覚に襲われた。

「さようなら、愛しい思い出たち。」のは涙を流しながら呟いた。
その瞬間、焚き火の炎が青白く変わり、呪いの火が真実の輝きを放ち始めた。
彼女の記憶が燃え尽きるにつれて、焚き火は静かに消え始め、夜の闇に飲み込まれていく。

周囲の人々は口を開け、驚愕の表情でその光景を見つめていた。
しかし、やがて村全体が静まり返り、魔法のように彼女の目の前から炎が消えた瞬間、呪いが解かれたことを実感した。
彼女の心には安堵感が広がり、苦しみから解放されたことを感じたのだった。

村は、呪いから解き放たれた。
しかし、のの心には代わりに空虚な感覚が残った。
彼女は、愛する記憶を失ってしまったのだ。
一時の輝きのために、彼女は大切なものを捨ててしまった。

焚き火の後、のはただ一人、静かに立ち尽くしていた。
彼女の目の前には、かつての温かな夜の記憶が無くなり、ただ闇だけが広がっていた。
彼女の心には、真実としての「何か」が宿り続け、再び村が明るくなるための長い道のりが始まっていた。

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