ある静かな夜、大学生の佐藤は友人たちと共に地方の小さな村を訪れていた。
彼らは村の外れにある「灯」という古い灯籠を見に行くことにした。
その灯籠は、かつて村人たちが命を懸けて守ったもので、長い間、夜ごとに明かりを灯していたという。
しかし、ある年、村に不幸が続き、灯籠は廃れてしまった。
代わりに村人たちは灯籠を忌避し、決して近づかないようになった。
今ではただの陰惨な場所として忘れられていた。
好奇心旺盛な佐藤は、その灯籠の伝説を聞いて興味を持ち、友人の田中、鈴木と一緒に訪れることを決めた。
夕暮れ時、彼らはランタンを手に持ち、道を進んでいった。
「本当にこんなところに灯籠があるのか?」田中が不安そうに言った。
「大丈夫、見に行くだけなんだから。何も起こらないよ」と鈴木が応じた。
村を少し外れたところに、確かにほっそりとした灯籠が姿を現した。
灯籠は朽ちかけてはいたが、どこか神聖なオーラを放っていた。
周囲には薄暗い木々が立ち並び、静まり返った森の中には虫の声さえも聞こえなかった。
佐藤はその燭台の近くに立ち上り、遠くの山々を見やった。
「この灯籠、いつからここにあるんだろうな」と言いながら、彼は灯籠に手を触れた瞬間、寒気が彼を襲った。
「おい、佐藤、触るなよ!」田中が声を上げたが、時すでに遅し。
灯籠の周囲に万華鏡のようにひらひらと光が走り始めた。
そして、その明かりが次第に一つの形を成し始める。
佐藤は目を凝らし、その現象に驚くしかなかった。
現れたのは、かつてこの村に住んでいたと言われる虚ろな目を持つ少女の姿だった。
「あなたたち、どうしてここに?」彼女の声は柔らかく、しかしどこか実体のない響きを持っていた。
佐藤は恐れに震えながらも、「伝説の灯籠を見に来たんだ」と答えた。
すると、少女は悲しげに微笑み、「この場所には、忘れ去られた物語がある。この灯籠には、命が宿り、もはや灯りを灯すことができない者たちの想いがこもっている。遠く離れた地から、あなたたちのような人たちが訪れるのを待っていた。」と語った。
友人たちはその言葉を理解することができずに、ただ見つめることしかできなかった。
「私の名は絵里。この灯籠の守り手よ。私には、生きた日々があった。しかし時が流れ、村人たちは恐れ、私を忘れてしまった」と彼女が続ける。
佐藤が何か反応しようとした瞬間、絵里は指を彼らに向けた。
「私を忘れないで。あなたたちがここに来たことを、どんな形でも伝えて。」
彼女の言葉が耳に残る中で、佐藤はふと自分がどうしたいのかを考え始める。
村の人々が彼女を忘れ去ったのには、何か理由があったのだろうか。
だが、隣にいた鈴木が叫んだ。
「逃げろ、これ以上いるな!」彼の声に驚き、その場から飛び出すように逃げ出す三人。
ランタンの光は、急に照明の役割を果たさなくなり、周囲は真っ暗闇に包まれていった。
彼らは手探りで進むが、恐怖が心をつかみ、道がどこに続いているのか全く見当がつかない。
暗闇の中、彼らは絵里の悲しげな表情を想い、どれほど長く昔の人々がこの場所で何かを守ろうとしたのかを痛感していた。
数時間後、ようやく彼らは村に戻りつくが、心の中には消えぬ恐怖と共に絵里の声が響き続けていた。
村人たちにはもう語り継がれていない灯籠の物語が、彼らの心に深く根付いてしまったのだ。
これからも灯籠のある場所は、何か大切なものが隠されていると信じられ、村人たちは尚更近づかないようになるだろう。
灯籠は再び静寂に包まれ、佐藤たちの訪れもまた彼女の願いを忘れ去られることとなった。