「灯篭の影に潜む少女」

木々が生い茂る育の里、村人たちが口々に語り継ぐ不気味な話があった。
そこには「失われた庭」という場所があり、かつて美しい庭園が広がっていたという。
しかし、大きな事故があった後、その庭は誰も近づかなくなり、村の伝説と化していた。

その庭には、ただ一つ存在する古びた灯篭があった。
誰もその灯篭に触れることを恐れ、村人たちはその周りを避けて通るようになった。
灯篭にまつわる噂は、神秘的な現象や怪異が起こる場所として、皆に恐れられていた。

そんなある日、若者の勇気を試すため、友人のエイジとナオミは「失われた庭」に肝試しに行くことにした。
「怖がって逃げ出すやつがいれば、無事に帰れないぞ」と、エイジは自信満々に言った。
その言葉に奮起し、ナオミは少し心配でありながらも、挑戦することにした。

夜が深まる中、2人は灯篭の前に達する。
「見て、この灯篭、まるで誰かの手が触れたように黒ずんでいる」とエイジは指摘した。
しかし、ナオミはその異様な雰囲気に嫌な予感を抱いていた。
エイジは衝動的に灯篭に手を伸ばした。
「ちょっと、触らないで!」慌ててナオミが止めたが、エイジは笑いながら触れてしまった。

その瞬間、周囲の空気が一変した。
灯篭から薄い煙が立ち上り、彼らの視界を覆い隠した。
次第に、灯篭から黒い影が浮かび上がり、彼らの前に現れた。
それは、何か言いたげな表情をした少女の霊だった。
唇を動かしているが、声は届かない。

エイジは恐怖で固まってしまった。
ナオミは目をそらさずに、霊の目を見つめた。
「あなたは、どうしてここにいるの?」ナオミの言葉は、驚くべきことに、少女の心に響いたらしい。
霊は頷き、灯篭の周りを指さした。

「ここで、何があったの?」ナオミの問いかけに対し、霊はかすかな声で「助けて」と囁いた。
その声は、エイジの恐れを和らげたかのように、逆に不思議な安らぎを与えた。

「どうすれば助けられるの?」ナオミは尋ね続けた。
すると、少女は再び頷き、灯篭の周りを回るように指示した。
エイジも、恐る恐るその指示に従った。
すると、周囲の景色が変化していく。
美しい庭園が姿を現し、少女の姿も生き生きとしていく。

彼女の目には涙が溢れ、ナオミは彼女の気持ちを感じ取った。
事故に巻き込まれたのは、少女の無邪気な遊びの最中だった。
その時、何かに引き寄せられるように、ナオミは彼女の手を取り、そっと一緒に踊り出した。
エイジもその様子に感化され、ナオミの横で手を繋いだ。

「一緒に帰ろう、私たちであなたを解放するから」。
ナオミの言葉に、少女の笑顔が輝く。
そして、ふと気づくと、周囲は再び暗くなり、灯篭が輝きを放ち始めた。

影が薄れていく中、少女は小さく「ありがとう」と言った。
彼女は穏やかな顔立ちに戻り、薄れゆく影の中で笑っていた。
灯篭は次第に光を失い、その周囲は静まり返った。

長い間彼女を拘束していた恐怖の影は消え去り、2人は静かに庭から立ち去った。
夜が明けると、不思議なことに初めてのように明るい日差しが村を照らしていた。
「もしかしたら、もうこの庭には変なことは起こらないかもしれないね」とエイジは言った。
しかし、ナオミは心のどこかで、あの少女がいつまでも彼女たちの心の中で笑っていることを感じていた。

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