「灯の中の孤独な愛」

夜の街が薄暗い霧に包まれている中、一つの古びた灯りが揺らめいていた。
その灯は、取り残されたように一つだけ、周囲の喧騒を拒むかのように静かに輝いている。
近くの公園には誰もおらず、静寂が支配していた。

菜穂は、友人と別れた後、ふとした興味からその灯りに引き寄せられた。
何か特別なものを感じ、足を進める。
彼女の足元には、落ち葉がたくさん散らばり、カサカサと音を立てている。
灯りの前に立つと、女の人の姿が見えた。
彼女は静かに、灯りの光を見つめていた。

「ここに人がいるの?」と菜穂は問いかけたが、女はただ微動だにしなかった。
彼女の髪は長く、白く透き通っているように見えた。
その目はどこか遠くを見つめ、まるで過去に縛られているかのようだった。

この異様な状況に不安を感じつつも、菜穂はその女に惹かれてしまった。
彼女の存在はまるで自分の心の奥深くに響いているかのようだった。
不思議な引力に導かれて、菜穂は女の近くに寄り、そして彼女を見つめ返す。

「あなたは誰なの?」菜穂は再度尋ねた。
しかし女は言葉を発しない。
無言のまま、冷たい風が二人の間を通り過ぎた。
その瞬間、菜穂は過去の声を感じた。
「愛する人を求めて…」その言葉は、女の口から発せられたものではない。
周囲の空気が語りかけるように響いていた。

女の視線が次第に変わり、菜穂の目をじっくりと見つめる。
言葉を返さない代わりに、彼女の表情からは切実な思いが伝わってきた。
菜穂の胸が締め付けられ、彼女の心に浮かぶのは、愛するとは何かという問いだった。

「愛とは、得ることだけじゃない…失うこともあるのよ…」女はその目を閉じ、菜穂に語りかけているようだった。
菜穂は彼女の気持ちを理解し始めた。
失った愛、あるいは永遠に戻れない距離。
この灯が彼女の愛を求めているのかもしれない。

その時、風が強く吹き抜け、菜穂の身体が震えた。
女が一瞬だけ笑みを浮かべ、その後、灯りの周りに薄い光の輪が現れた。
まるで彼女の想いが、少しずつ具現化しているかのようだった。

菜穂は女に手を差し出し、「一緒に行こう」と心の底から思った。
しかし、女は首を振り、再びその微笑みを消した。
彼女の形が透けるようになり、灯の光が彼女を包み込む。
愛していた人への強い思いは、永遠にその場に留まっていると感じさせた。

「愛を求める心は、いつまでも孤独なの…」最後の言葉を残して、女は灯の光に溶け込んでいった。

菜穂はその場にただ立ち尽くし、女の姿が完全に消え去るまで見つめていた。
心の中には、愛の切なさと重みが残り続けた。
辺りは再び静寂に包まれ、あの灯りは彼女に何かを届けてくれたような気がした。

でもそれは同時に、永遠に心の奥に宿る思い出となることを意味していた。
菜穂は愛する人を思い出し、そして彼女の姿を忘れないだろう。
夜は更けていき、再び静けさが戻る中、灯は小さく瞬きながら、尚も誰かを待ち続けるのだった。

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