「滴る影の呼び声」

ある夏の夕暮れ、慎吾は友人たちと公園でバドミントンを楽しんでいた。
汗をかきながら盛り上がる彼らの笑い声が、薄暗くなっていく空に響く。
日が暮れるのもあっという間で、公園の周囲には徐々に影が濃くなり、場の雰囲気が変わり始めた。
そんな時、他の友人たちが「もう帰ろう」と言い出した。

慎吾はそれに反して、もう少しだけ遊びたいという気持ちが勝り、一人残ることにした。
彼は、友人たちが帰った後も、バドミントンのシャトルを暇つぶしに打ち続けた。
しかし、周囲が静まるにつれ、いつの間にか薄暗い公園は不気味な雰囲気に包まれていた。

そのとき、彼の耳元で何かが滴る音がした。
音の方向を見やると、近くの樹の下に何かが光っている。
近づいて見ると、それは見慣れない小さな水滴のようだった。
地面に落ちた水滴は、大きさがバラバラで、薄暗い中でも微かに光を放っている。

慎吾は不思議に思い、その水滴を間近で観察することにした。
すると、その水滴の真ん中に映し出されたのは、彼の友人たちの顔だった。
しかし、何かが違う。
彼らの表情は笑顔ではなく、どこか怯えた様子でこちらを見つめていた。
驚いた慎吾は、思わず後退りした。

「これは一体…?」慎吾は声を呟く。
すると突然、滴が次々と地面に落ち始め、音がさらに大きくなっていった。
ドク、ドク、ドク…。
その音は、まるで心臓の鼓動のようだった。
恐怖に駆られながらも、好奇心から目を離さずにいると、滴がある一点に集まり始めた。

その瞬間、慎吾は異変を感じた。
集まった水滴が渦を巻き、次第に人の形を成していく。
薄ぼんやりとした人影が浮かび上がり、慎吾は全身が震えた。
恐怖のあまり逃げ出そうと思ったが、体が動かない。
どこか得体の知れない存在に引き寄せられているような感覚だった。

「慎吾…」その影が、まるで彼を呼び寄せるかのように口を開いた。
それは、自分の名前を呼ぶ声だった。
異様な声色は耳に心地よいような、でも寒気を感じるような不思議な響きだった。

慎吾は恐る恐る、「誰だ?」と絞り出すように言った。
すると影はかすかに笑みを浮かべた。
影の目は彼をじっと見つめ、何かを訴えるかのように動いている。
周囲が静まりかえり、一層蒸し暑さが増していく中、その声が再び響いた。

「帰るの…?帰ってしまうの?」その声は不安をかき立てた。
慎吾は背筋が凍る思いをした。
こんな場所で帰るという選択肢が、自分にとってどれほど恐ろしいものになるのか想像できなかった。

影はゆっくりと前に歩み寄った。
水滴のような形から、だんだんと本来の姿に近づきながら、慎吾の目の前に立った。
表情は不明瞭であったが、その存在感は圧倒的だった。

慎吾は逃げようとしたが、その影は彼の前に立ちはだかり、逃げられないようにした。
影の声が耳元でささやく。
「あなたも私のようになりたいのかしら?この世界から逃げ出せない呪いをかけてあげる…」彼はその瞬間、恐怖が一気に襲ってきて、思わず叫んだ。

その叫び声は、周囲の静寂を破り、影は一瞬だけ後退りした。
しかし次の瞬間、影は再び迫ってきた。
「さあ、帰りましょう。あなたは私の一部になれるのだから…」影の目がギラリと光った。

慎吾は意を決してその場を逃げ出した。
途中、何度も振り返りたくなる衝動に駆られたが、自分の足はまっすぐに公園の出口へ向かっていた。
暗闇に包まれる公園の中で、滴の音がまだ耳に残る。

翌朝、慎吾は無事に家に帰れたが、心の奥に何か重く残るものを感じていた。
あの影は何だったのか、彼は一生忘れられない恐怖として、その記憶を抱え続けるのだった。
公園に戻ることは、二度としないと誓いながら…。

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