ある雨の降る夜、りは友人たちとの集まりを終え、一人で帰路に着くことになった。
普段ならば賑やかな町も、この日は不気味に静まり返っていた。
彼女はふと、通り過ぎる公園の方に目を向けた。
雨に濡れた木々の間に佇むあの滑り台、子供たちの笑い声が聞こえたような気がしたが、それは錯覚に過ぎなかった。
急に何かが気になり、りはその公園へ向かうことにした。
暗い中でも足元は滑りにくいと自分に言い聞かせ、ゆっくりとした足取りで進んでいく。
公園に着くと、風が冷たく体を包み、心の奥に不安が芽生えた。
滑り台の近くには、誰もいない公園のはずなのに、何かが動いている。
薄明かりが差し込む中、その姿を見た。
小さな手が、滑り台の上から伸びていた。
りは驚き、その手の主を探したが、周囲には誰も見当たらない。
手は、一筋の雨に濡れて光りながら、まるでりを呼ぶように揺れている。
思わず近づくと、その手はさらに近くでりに微笑んでいた。
しかし、彼女の心には恐怖が広がっていった。
どうしてこんなところに子供がいるのか、さらに周りには誰もいない。
瞬時に理解した。
手は一つ、子供のものであるはずがない。
「会って、遊ぼう…」
その声が耳元で囁かれる。
気がつくと、りは滑り台の方へと足を踏み入れていた。
何かに取り憑かれているようだった。
その瞬間、全身が凍るような感覚が広がった。
彼女の意識がどんどん遠のいていく。
まるで別の誰かに操られているかのように、足は進んでいた。
滑り台の下まで来ると、りは手を伸ばし、その小さな手と触れ合った。
途端に、手が一瞬強く引かれた。
その力に抗えず、りは滑り台の上に引きずり上げられた。
辺りは一瞬にして暗闇に包まれ、その静けさの中、彼女は何かに包囲される感覚に襲われた。
声が聞こえる。
何人もの声が同時に耳元で囁く。
彼女は冷や汗をかきながら、その囁きを必死に振り払おうとしたが、まるで彼女を飲み込もうとするようだった。
「会って、遊びたい…」その声は、確かにただの子供たちの声ではなかった。
何か深い、悲しい感じがする。
時間が経つにつれ、りは恐怖の中でその場から逃れようと必死だったが、手は離れず、絡みつくようにして彼女をつかんでいた。
そして、彼女の意識の奥底に、彼らの悲しい願いが入り込んできた。
「遊びたい、私たちと…」
その瞬間、りは自分が何に呼び寄せられているのかを理解した。
近くの学校で起きた事故の影響で、子供たちの魂は今もこの公園に縛られ、友達を求め彷徨っているのだと。
彼らはあの日のまま、遊び相手がいなくなった悲しみに包まれていることを知った。
りは怖れよりも、彼らの痛みに心を痛めた。
自分にも彼らとの最後の縁をかけて、手を引いて滑り降りて行こうと考えたが、それが本当に彼らを解放する道なのか迷った。
「会いたい、会ってよ…」
その時、彼女の心に決意が生まれた。
りは暇を見つけてまたこの公園へ来ると約束し、その場を離れた。
後ろでひょっとしたら声が聞こえた。
どうか忘れないで…という呟きだった。
その帰り道、彼女は、自分の孤独を埋めるために、彼らと向き合うことが何よりの幸せだと思うようになった。
暗い公園が彼女を変えた夜。
手の中に埋もれていた子供たちの思いを胸に、りは新たな出発を決意した。