「滅びの石に囚われて」

静まり返った山のふもとに、古びた石がいくつも転がっていた。
その中でも特に大きな石が、村の人々に恐れられていた。
探(さぐる)という名の若者は、噂を聞いて興味を持ち、その石に近づくことにした。
古い村の伝説では、この石は「滅びの石」と呼ばれ、触れた者は必ず恐ろしい運命に見舞われるという話があった。

探は好奇心と少しの恐れを抱えながら、石をじっと見つめた。
周囲は暗く、木々が風に揺れ、まるで彼を警告しているかのようだった。
しかし、彼は意を決してその大きな石に手を伸ばした。
触れた瞬間、冷たい感触が彼の体を貫いた。
その瞬間、彼の目の前に異様な光景が広がった。

目の前には、滅ぼされた村の姿が浮かび上がっていた。
焼け焦げた家々、悲しみに暮れる人々、そして何かに怯えたように石を見つめる姿があった。
不安に駆られた探は、すぐに目を閉じた。
しかし、視界が戻った時、彼は別の場所に立っていた。
そこには、石のまわりに人々が集まり、何かを語り合っていた。

彼らの中に、一人の女性がいて、彼女の目は悲しみに満ちていた。
彼女は探に気づき、驚いた顔で自らの腕を指差した。
探は、その手に何かが付着しているのを見つけた。
それは、石から流れ出るような黒い物体で、彼女の肌に浸透しているように見えた。

「これが…居るということなのです」と、女性はゆっくり話し始めた。
「この石が、この地に留まることで、私たちは永遠にここに囚われているのです。」彼女の言葉が胸に迫る。
探はその意味を理解しようと必死になった。
「居る」というのは、ただの存在ではなく、過去の記憶や苦しみを抱え、永遠に滅びることのない惨劇を指しているのだと。

彼は恐れを感じ、急いでその場から逃げようとしたが、足が石に引き寄せられるように止まってしまった。
目の前には、石に絡みつくようにして、無数の影が見えた。
彼らは彼を呼び寄せ、そして彼に囁いた。
「お前もこの一員になれ」と。

探は強い恐怖を感じたが、同時に何かが彼の心の中でざわめき始めた。
彼はかつて、周囲の友情や愛情を失い、孤独という名の石に押しつぶされていたのだ。
ここで石を触れたことが、彼の自らの選択の結果であることを思い知った。

その瞬間、彼は意識を失い、再び石のもとに引き戻されていった。
意識が戻った時、彼は村に帰ることができるだろうと願った。
しかし、周囲はまったく変わらない。
心の中に残る恐れと、石が発する冷たい気配が、彼を包み込む。

彼はその後、「滅びの石」に関する噂が再び広まることを恐れ、誰にもそのことを話せなかった。
しかし、どんなに努力をしても、その影響から逃れることはできなかった。
彼の内に潜む恐怖が、時折、夜の静けさの中でささやきかけた。
「お前も私たちの仲間になれ」と。

そして、彼は気づくことになる。
彼はただの人間ではなく、石の記憶の一部となり、同じように滅ぼされた者たちと共に永遠にその地で居続ける羽目になってしまったのだ。

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