「満月の影に消えた夜」

梅田の町には、古くからの言い伝えがあった。
「満月の夜、特定の場所で人が消える」というもので、誰もがその話を噂として聞いたことがあった。
しかし、多くの人々はそれを単なる迷信だと軽視していた。

主人公の健太は、友人たちと一緒にその話を楽しむために、満月の晩に「消えた場所」として知られる公園へと出かけた。
彼はホラーワゴンで盛り上がるため、何か恐ろしい体験をしようと考えていた。
公園に着くと、仲間たちは興奮した様子で語り合い、一瞬の静寂の後、軽いノリで彼らの恐怖心を掻き立てようとしていた。

「健太、お前一人であのベンチに座ってみろよ。10分間そこで待ってろ」という声が上がった。
健太は少し不安になりながらも、皆の期待に応えようと決意した。
しかし、暗闇の中で一人になると、彼の心の中に緊張が広がった。
周囲の木々の影が、まるで彼を見張っているかのように感じられた。

時間が経過するにつれて、健太の感覚は鋭くなっていった。
周囲は静まり返り、虫の声さえも聞こえない。
彼は時計を見て、思っていたよりも時間が経っていることに驚いた。
友人たちが気づいていないのではないかと心配になり、ついに彼は声をかけることにした。

「おい、まだやってるのかよ?」返事はない。
健太は立ち上がり、彼らの方へと向かった。
しかし、足が地面に重く感じられ、進むのが難しくなった。
そんな中、彼は背後でかすかな音を感じた。
振り向くと、そこには誰かが立っていた。

その姿は、まるで人間のように見えたが、顔は影に隠れたまま、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
健太は恐怖に駆られ、立ち尽くすことしかできなかった。
その瞬間、目の前の黒い影が彼に向かって深く身をかがめ、まるで吸い込まれるように迫ってきた。
健太は驚き、逃げ出そうとしたが、体が動かない。

「お前…消えたいのか?」その影が囁く。
健太は「いや、そんなことはない!」と叫ぼうとしたが、声が出ない。
恐怖のあまり、その場を離れられずにいると、影はさらに近づいてきた。
あまりにも不気味で、彼の心の奥底に眠る恐れが目覚めた。

その時、周囲の光景がゆらぎ始め、あたりがぼやけて見える。
彼は思わず目を閉じた。
次に目を開けた時、周囲は変わっていた。
彼はいつの間にか、逆光の中に立っていた。
その光が彼の体をすり抜けるように感じられた。

「ここはどこだ…?」健太が呟くと、彼の心にかすかな声が響いた。
「ここはお前が選んだ場所だ。消えたかったのなら、ここにいればいい。」

一瞬の迷いが彼を襲ったが、彼はその声を無視し、逃げ出そうとした。
しかし、どこに向かっても道は現れず、彼はただ黒い影に導かれるように進んでいた。
影は彼のすぐ後ろにぴったりと付きまとい、その姿をゆっくりと近づけてきた。

影は「君はここで消える、もう戻れない」と言った。
健太は必死に思い出した。
友人たち、借りた本、そして夢だった全て。
彼は自らの人生がこの場で終わることを恐れ、叫びたい衝動に駆られた。

「戻りたい、友達と一緒にいたい!」その瞬間、強烈な光が彼を包み込み、影は恐怖に満ちた声で怒鳴った。
「お前の選択を悔いるな!」

光が一瞬消えた瞬間、健太は友人たちの声が耳にした。
「健太、どこにいるんだ!」それに反応するように、彼は再び立ち上がり、友人たちがいる方向へと向かって走り出した。

すると、目の前に彼の仲間たちが立っていた。
彼の身体はもう影に飲み込まれることはなかった。
周囲に戻った時、健太は何が起こったのかただ呆然としていた。
彼が影に飲み込まれかけた経験は、心に大きな影を落とした。
彼はこの出来事を決して忘れることはないだろう。
満月の晩、消える運命に抗ったことを。

タイトルとURLをコピーしました