「消失する光の間」

深い山に囲まれた静けさの中、村人たちの間で語り継がれている窟(いわや)があった。
その窟は、何世代にもわたり、人々の足が遠のき、今ではただの忘れ去られた場所となっていた。
窟の中には、奥深くに続く通路があり、誰もその先に何があるのかを知る者はいなかった。
ある日、若い男、佐藤健介はその噂を聞きつけ、興味本位でその窟を訪れることにした。

山を登り、目指す窟に到着した健介は、その巨大な口を前にして思わず息を呑んだ。
周りの静寂に圧倒されながら、一歩を踏み出す。
闇が広がる中、懐中電灯で照らすと、湿った壁や不気味な形をした石たちが見え隠れする。
健介は自身の勇気を奮い立たせ、奥へ進んだ。

窟の奥深くに進むにつれ、空気が重くなり、何かが視界の端に動いた気がした。
彼は思わず振り返るが、そこには変わらぬ闇しかなかった。
不気味な思いが頭をよぎりながらも、好奇心が彼を突き動かした。
進むことこそが、自らの恐れを乗り越える唯一の方法だと思ったのだ。

やがて、窟の中でひときわ目を引く場所に辿り着く。
それは、不気味な形をした岩が無数に積み重なった空間だった。
健介は、その隙間にひょっこりと小さな光が見えることに気付いた。
まるで何かに誘われるかのように、その光に近づいていく。

その瞬間、健介の心に不安が襲いかかる。
しかし、その光があまりに魅惑的で、彼はもはや止まることができなかった。
目の前の小さな光は、まるで誰かを呼んでいるかのようにグラグラと揺れていた。
目を凝らすと、それは小さな球体のように見え、次第に人の顔に形を変えていった。

「助けて…」その声が、まるで彼の心の奥深くに響いた。
健介は恐怖と好奇心の間で揺れ動く。
その瞬間、彼の周囲の温度が急激に下がり、窟の壁が低い唸り声を上げ始めた。

「お前も、この間を通るか?」その声は、明瞭に健介の耳に届いた。
振り向くと、背後にまた別の影が現れ、その影は一瞬のうちに彼の内部に忍び込んできた。
不気味な笑みを浮かべるその姿は、まるで自分の姿を模したかのようだった。

逃げようとした瞬間、影は彼を掴み、完全に消え去ってしまった。
周囲は一層深まる闇に包まれ、健介は身体を硬くしてその場に立ち尽くす。
叫び声を上げたかったが、声も出ず、ただただその場に留まってしまった。

意識が段々と薄れていく中で、彼はかつての自分、友達との楽しい思い出やつらい過去、失った時間が浮かび上がってきた。
それはまるで、影が彼自身を探り、自分の隙間を埋めようとしているかのようだった。

そして、「元」のような言葉が心の中で響き、彼はただ記憶に引き込まれていく。
そうして、次第に何もかもが消えてしまう感覚を味わった。
窟の中で健介は、一時的に消失し、自分の存在を見失っていた。

だが、思い続けることで、彼は再びその光を目指した。
次第に影の存在は薄れ、彼は自らの過去ともう一度向き合うことを決意した。
影はある意味で彼に問いかけ、過去の自分を再確認させていたのだ。
そうして、健介はその窟の中で真の自己と向き合い始めた。

再び周囲が明るくなり、彼は窟の入り口へ急いだ。
彼はその窟の出口に辿り着き、背後を振り返ると、暗闇の中にまだ小さな光が微かに揺れていた。
やがてその光も消え、静寂に包まれた。
健介は、その場から立ち去る決心を固めたが、心の中には新たな一歩を踏み出すための何かが芽生えていた。

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