古びた館が立っているのは、町の中心から少し離れた静かな場所だった。
周囲には誰も通らない細い道が続き、館の存在はほとんど忘れ去られているかのようだった。
しかし、徳という若者はその館に興味を持ち足を運ぶことにした。
夜の帳が降りる頃、彼は一歩ずつ螺旋階段を上り、古びた木の扉を押し開けた。
部屋の中は薄暗く、埃まみれの家具や所々に崩れかけた壁紙、そして一面を覆う本棚が目に入った。
ゆっくりとした足取りで部屋を進みながら、徳は不思議な雰囲気に包まれた。
この館には何か変わったものが潜んでいる気がした。
ふと、本棚の中から一冊の古びた本が目に留まった。
彼は興味本位でその本を手に取ると、タイトルは見当たらず、ただ真っ白な表紙が目に刺さった。
ページをめくると、奇妙な文字や絵が描かれているが、どれも理解できなかった。
徐々に彼の心は、不安感から興奮へと変わっていく。
その時、館の中で不意に風が通り抜ける音がした。
徳は背筋がぞくりとしたが、好奇心も相まってその音の正体を確かめることにした。
館の他の部屋へと足を運ぶと、そこで彼は異常な現象に気づく。
部屋と部屋の間には、普段では考えられないような距離感があった。
近くにいるはずの声や物音が、その度に遠くなっていくように感じられた。
不安を抱えた徳は、館の隅々を探索する中であることに気づいた。
彼は何度もある部屋に辿り着くが、そのたびに部屋の様子が変わっているのだ。
貴族の間がしっかりと整えられていたり、逆に暗闇に埋もれていたり、まるで館自体が生きているかのようだった。
彼は混乱しながらも、さらに中へと足を踏み入れる。
そして、次の部屋で彼は衝撃的な光景を目にする。
壁一面に映し出された無数の鏡が、彼の姿を捉え続けているのだ。
鏡に映る自分の顔は、いつもと違って、どこか不気味で異様な笑みを浮かべていた。
その瞬間、彼の心に恐怖が押し寄せる。
「これは一体何なんだ…」彼は急いで館を出ようとしたが、鏡の不気味な笑みが彼に向かって手を伸ばしてくるように見えた。
逃げるように館を駆け抜ける徳だったが、館の通路はどんどん狭くなり、出口への道が消えたかのようだった。
逃げ惑う彼を待ち受けていたのは、さっき見た鏡の中の自分だった。
彼の目にはそれが現実なのか、夢なのか分からなくなっていた。
館の中で、この異常な存在に取り込まれていくような感覚が彼を襲った。
「逃げられない…、ここはもう永遠の迷宮だ」彼は自身の声が消え入りそうになるのを感じた。
そして、目が覚めた時、彼は自分の部屋にいた。
しかし、心にかかる重たさは消えず、彼は館のことを忘れることができなかった。
年月が経ち、徳は館の存在を心のどこかで思い出そうと試みるが、どうしても思い出せない。
彼の中にあるはずの記憶が、少しずつ消えていくのを感じた。
そしてある晩、再びその館に訪れる夢を見た。
夢の中の彼は、館の中で自分が消えてしまう瞬間を目にする。
そして目が覚めた時、鏡の前に立っている自分を見た瞬間、再び真っ白な表紙の本が浮かんできた。
彼はついに思い出した。
その本の中には、彼の「消えた記憶」が詰まっているのだ。
これから、彼はその館に戻り、忘れられた自分を取り戻さなければならない。