「消えゆく血の足跡」

静かな田舎町に住む中村健太は、長い間、東京での生活を経て故郷に戻った。
彼は都会の喧騒から解放されることを希望し、実家の庭にある古びた倉庫を片付けることにした。
しかし、その倉庫には長らく誰も手を付けておらず、どこか不気味な空気が漂っていた。

片付けを始めると、健太は壁の隅に小さな木箱を見つけた。
蓋を開けると、中には古い日記と一枚のポストカードが入っていた。
日記には、彼の知らない昔の家族の物語が詳細に記されており、帰ってきたことを喜ぶ一方で、そこには不穏な出来事も書かれていた。
特に、彼の祖母が若い頃に体験した「消えた人々」の話が気になった。

その日記によると、祖母の住んでいた村では、時折、血のような赤い水が村の周辺に現れ、人々が次々と姿を消してしまう現象が起きていた。
しかし、祖母はその理由を解明できぬままにこの世を去ったと書かれていた。

その後、健太は怖い噂にもかかわらず、古い倉庫の片付けを続けた。
しかし、夜になると奇妙なことが続いた。
彼は夢の中で、祖母の声を聞いた。
「帰ってきてはいけない、消えてしまうから。」何度も何度も夢に現れる祖母の姿に、健太は恐ろしくなった。

ある晩、美味しい料理を作った後、彼は再び日記を開いて読み返すことにした。
その時、ふと外で何かが動く音がした。
窓の外には赤く光る水が広がっており、その中に何かが浮かんでいた。
健太は恐怖に駆られ、外に出てみた。
すると、そこには人影が立っており、見るとそれは彼の近所の住民、佐藤さんだった。
彼は血に染まった服を着ており、無表情で彼を見つめていた。

「帰らなければならない。」佐藤さんはかすれた声で言った。
健太の中に恐怖が湧き上がり、心臓が高鳴った。
佐藤さんは彼に近づき、まるで彼を引きずり込むかのように手を伸ばしてきた。
健太は全力で逃げ、倉庫の中に駆け込んだ。
不安と恐怖が押し寄せ、何を信じればいいのか分からなくなっていた。

翌日、健太は再び日記を開いた。
今度は「消えた者たち」の名前を探し始めた。
すると、そこには彼の家族や町の人々の名前が一つずつ書かれていた。
そして、ついに彼の目に留まったのは、佐藤さんの名前だった。
彼が実際に姿を消したのは、祖母が若い頃とまったく同じ時期に記されていたのだ。

その時、健太の心に冷たいものが走った。
「帰る必要がない」と思いながらも、心の奥底では彼も知らず知らずのうちに血の水に飲み込まれていく運命を感じていた。
彼の足はどんどん鈍くなり、周囲の景色がぼやけていく。
「消えてしまう」と祖母の声が耳に響く。
彼は倉庫の中で静かに震え、思考が混乱していく。

そのまま時間が経ち、翌日はいつものように朝がやってきた。
しかし、空は不気味に暗く、健太にはいつの間にか周囲の音が消え去っていることに気がついた。
彼はもう一度、家の外に出てみることにした。
しかし、そこは様子が変わり果てた世界だった。
人々は影だけになり、赤い水が町を包み込んでいた。

彼は消えてしまったのだ。
祖母の言葉と同じ道を歩んでいる。
自分が何を失ったのか、どれほどの恐怖を抱えているのかを実感した時、もはや逃げ道など残されていなかった。
見えない手に導かれるように、彼もまた、この世のどこかへ消えてしまう運命を迎えることになったのだった。

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