「消えゆく絆の屋敷」

深い森の中に、かつて栄えた村があった。
しかし、今ではその村は忘れ去られ、唯一の屋敷だけが、静かに佇んでいる。
その屋敷はかつて、人々の絆を結ぶ場所だったが、今は孤独と哀しみの象徴になっていた。

村に住む春男は幼い頃から、両親や友人と共に育ったが、ある日、彼らが突然姿を消してしまった。
彼は何とか村を訪ねようとするも、無常にも村の者は、一人また一人と消えていく。
望むものがすべて宙に散っていくような思いを抱えながら、彼は村から離れられなかった。

ある夜、春男は夢を見た。
それは長い間、共に過ごした友人、希が出てきた夢だった。
彼女は薄暗い屋敷の中で彼を待ちながら、微笑んでいる。
彼女の呼びかけに、春男はなぜか引き寄せられるように目が覚め、屋敷へと足を運んだ。

屋敷の外観は陰鬱で、まるで呪いをかけられた場所のようだった。
だが、彼はそれを恐れずに中へ入ることにした。
中に入った瞬間、彼は異様な静けさと共に、かすかに感じる暖かさを体験した。
それはまるで、彼を迎え入れているかのようだった。

薄暗い廊下を進むと、様々な写真が壁に飾られている。
その中に、希の姿があった。
彼女は笑顔で、一緒に遊んでいた頃の楽しい思い出を思い起こさせた。
すると、どこからか彼女の声が聞こえた。
「春男、私を見つけて。」

声に導かれながら、春男は屋敷の奥へ進んだ。
廊下の先にある部屋のドアは、自ら開かれる。
中に入ると、そこには大きな鏡が立てかけられていた。
鏡に映るのは、彼自身と希だった。
彼女は鏡の中で微笑みかけ、春男を見つめている。

「なぜ、ここにいるの?」と春男が尋ねると、彼女の表情は次第に曇り始めた。
「みんな、私を忘れてしまったの。私のことを思い出してほしい。」

その言葉と同時に、屋敷の空気が重くなり、不気味な影が壁を這うように動き始めた。
春男は恐れを感じたが、彼女への思いがそれを超えて、心を支配する。
「希、僕は君を忘れない。絶対に。」

彼の言葉に、希は優しく微笑み、ゆっくりと鏡の中に手を伸ばした。
しかし、その瞬間、影が彼の周りを取り囲み、彼を引き裂こうとしていた。
春男は必死に抵抗し、延々と続く絆にすがろうとする。
「希、君はここにいる! 一緒にいる!」

彼の声は屋敷を揺らすほどの力強さで、周囲の影を振り払い、鏡に映った希の姿を引き寄せた。
彼女は彼の元に向かって手を伸ばし、二人の指先が触れ合った瞬間、静かな光が二人を包んだ。

屋敷は再び静けさを取り戻し、春男は目を覚ました。
目の前には、希の笑顔があった。
二人は強い絆で結ばれ、これからも共に在り続けることができると確信していた。
しかし、屋敷の中には、未だに消え失せた者たちの声が静かに響いていた。
「私を忘れないで。」その声は、彼の心に強烈な印象を残し、消えることはなかった。

春男は再び屋敷を訪れることを決めた。
彼は希望を持ち続けている。
そして、彼の中で希の存在は永遠に消えることはないだろう。
屋敷は彼にとって、ただの廃墟ではなく、消えた者たちの思いを引き継ぐ拠り所となったのだ。

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